日銀内では、金融政策の手法が長短金利操作に変わったことで、市場の動きを見ながら実際のオペレーションを行う金融市場局といった“現場”が力を持ち始めている。そうした市場部門と、政策立案をする企画部門を主にみる日銀生え抜きの雨宮正佳副総裁に“重心”が移ってきている。

 対するリフレ派は、依って立っていた「理論」通りに物価が上がらない中で、発言力の低下は否めない。

 岩田規久男副総裁の後任として“リフレ派枠”で就任した若田部昌澄副総裁は、「必要なら追加緩和」の姿勢は変えていないが、物価目標実現時期の削除には「賛成」票を投じており、金融緩和を進める新たな提案も現時点では行っていない。

 リフレ派の論客だった岩田氏も、日銀に入ってから新たなアイデアを提示できないままだった。

「中に入ってから、事情がわかることが多い。国債購入の増額を主張しても、銀行や生保は、バランスシート上、一定の長期国債は持つ必要があるから、日銀が買い続けるには限界がある。こうした個別金融機関の経営情報には、日銀に入って初めて触れることになる。こうした事情は政策委員も同じ。外にいた時は威勢のいい積極緩和論を唱えることができても、現実が分かるとリフレ派も現実路線で考えざるを得なくなる」(元政策委員)

「もともと、副総裁は総裁を補佐する立場だし、若田部氏の専門は経済学説史。理論やオペレーションに関しては、日銀の事務方に頼らざるを得ない。勝負はついている」と元政策委員は語る。

●「副作用」対策を前面に 金融正常化の布石はどこまで

 こうした流れの中で、今回の「物価検証」でどこまで踏み込むのか。

 将来、金融政策の正常化を進めていく布石にとの思惑はあるにしても、そのことをどこまで書き込めるかだ。

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「景気後退」の前に時間との闘い