「日銀主流派の本音は、まずは現在、「ゼロ%近傍」に抑えている長期金利をわずかずつでも引き上げる『微修正』をしたいということ。だが、そのための理屈については十分に固めきれていないのではないか」と日銀OBの一人は言う。

 物価に対する考え方を、2000年のものに完全に戻すとなると、「2%物価目標」をなくさなければ整合性が取れなくなる。しかし、それでは異次元緩和の失敗を認めることになってしまい、リフレ派を納得させるのは難しい。物価目標を撤回できないとなれば、日銀の伝統的な物価の考え方を可能な限り書き込みつつ、物価の分析だけにとどめて、金融政策の変更を示唆するところまでは突っ込まない、という可能性もある。

 高齢者や女性などの労働参加によって賃金が上がりにくくなっていることや、ネット通販などの普及で世界的に物価水準が平準化される効果など、新しい視点や要素をまぶし、新たな政策発想が必要なことをにおわせながら、当面は今の枠組みの効果を見守るという姿勢にとどめるというわけだ。

 とはいえ、今のまま「2%物価目標」を維持し続ければ、「副作用」の累積効果が強まってしまうという矛盾は解消しない。

 となると、これまでは緩和を続ける「効果」と、「副作用」の弊害の両方をてんびんにかけるとしていたのを、今後は徐々に「副作用」に焦点を当てた情報発信を増やし、政策変更が受け入れられる“空気”を醸成していくと予想される。

「副作用」の問題に市場が反応し、国債市況や金利が乱高下する懸念もあるとして、「緩和を持続的なものにするためにも、金利を微調整する必要がある、という理屈で金利誘導幅を広げたり、誘導目標を引き上げたりすることについて、合意を得ようとするのではないか」と別の日銀OBは見ている。

 7月の決定会合では「副作用対策の検討」が打ち出されると見られ、また26日の東京債券市場では長期金利の指標である10年物国債の流通利回りが0.1%をつけるなど、市場では、日銀が長期金利の一定幅までの上昇を容認する政策修正が近いとの予想も出始めた。

 とはいえ、残された時間は少ない。2019年10月には消費増税が予定され、2020年の東京オリンピック後は景気が下降局面に入ると予想されている。しかもここにきて、「貿易戦争の拡大」という世界経済の新たな不安定要因も出てきた。金利を上げようにも、その前に景気後退局面になれば、「微修正」の道は閉ざされかねない。

「物価検証」を機に、「異次元緩和」から正常化に進むことができるのか。時間との闘いだといえる。

(ダイヤモンド・オンライン編集部)