作者は短歌結社「まひる野」に所属する1980年生まれの若手歌人。第1歌集である本書には主に2010~17年に作った463首を収めた。

《辞めたさの話をすればむちゃくちゃにウケられているわたし、噺家》

 大学卒業後、接客業に就いた作者は、ハードな仕事や人間関係のストレスで不眠になり、辞めたいとの思いを抱えていた。

《なんだあのカップル十五分もおる「あーん」じゃないよ あとで真似しよ》

 こんな調子の話を聞いているうちに、読者は笑顔にさせられてしまうのである。

《友達の産んだばかりの子のしゃっくりが聞こえる電話の奥 いらっしゃい》

 この世界はつらく、楽しいことばかりではないけど、よく来たね、お茶でもどうぞと迎えてくれるような温かさを持つ歌集だ。

週刊朝日  2018年7月27日号