東尾修
東尾修
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 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修さんは、初めて実施された現役ドラフトに期待を寄せる。

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 昔は相手球団にプラスにさせないため、トレードの打診があっても受けず、選手を「飼い殺し」にするケースは多くみられた。トレードが起きるときは、どちらかの球団が放出せざるを得ない事情があることも多かった。それがいつしか「WIN-WIN」の関係を模索するようになり、今では無償トレードも含め、その選手が生きるならば移籍を考えるようにもなった。野球界全体の活性化を考えるようになった。

「トレード」という言葉は「放出」ととられがちだったが、今はそう考えるファンのほうが少ないだろう。FA制度の定着などにより、新天地に移籍することが「日常」となった。そして決してマイナスの印象をいだかなくなった。むしろ、何も手を打たない球団は「何で動かないの?」と感じるようにもなっている。その流れの中で、12月9日に出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化させるために導入された現役ドラフトが非公開で初開催された。各球団は2人以上を対象選手として挙げ、各球団がリストの中から最低1人を指名。今回は、2巡目は実施されなかったが、12球団12選手の移籍が決まった。

 一つの球団の側面から言えば、1人を出し、1人を最低獲得するという「強制トレード」のようなものである。2018年からNPBとプロ野球選手会で議論が始まったものだが、まず第一歩を踏み出したことに拍手を送りたい。ポジションの関係で、出場機会が限られた選手が、新天地で躍動する。そういった例が増えていくかは、今回移籍した12人の頑張りにかかっている。移籍した12人は、移籍先からほしいと思ってもらった選手である。ポジティブにプレーしてもらいたい。

 今回、ドラフトの対象となる選手に一部制限があり、事前に提出するリストが非公開であることなどには様々な意見は出るだろう。本当に12月の開催がいいのか、移籍した選手が1年後に戦力外となるケースはどれだけあるのかなども、継続的に検証していく必要がある。ただ、そんな検証も動き出さなければ生まれないものである。実効性を高める作業はこれから数年かけて構築していけばいいことである。

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