●そもそも、まともに会話していますか?

 家事編をいろいろと語りましたが、一番重要なのは会話です。年老いた夫婦には本当に会話がない。ともに歩んできた長い人生の末で、同じ方向を向いているのであれば、特に会話がなくても素敵な関係なのだと思います。しかし、向いている方向もバラバラだとすれば、それは単なる同居人以下です。

「同じ趣味を持て」とまでは言いません。時には話題を提供してみてはいかがでしょうか。

 まず大切なのは、話を聞くことだったはず。あなたが忙しく働いていた間、奥さんは帰ってきたあなたといろいろと話がしたかったはずだからです。専業主婦であったらなおさらです。もし、それを生返事だけで適当にあしらってきたとするなら、そのしっぺ返しが老後の無言です。だとすれば、今度はこちらから歩み寄りましょう。

 こちらから話題を振るのは少し照れくさいかもしれませんが、やってみると意外にできるものです。ただし、振る話題については工夫がいるかもしれません。例えば流行っている本を読んでみて、面白ければ、それを勧めてみるなどはいかがでしょうか。私もつい数年前にやってみました。

 本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』という本を読んで感動したので、「こんな本があってさあ、……ピアノの音がこぼれてくるようなんだ」と話題を振ってみたのです。実は軽く受け流されるかと思ったのですが、意外にも興味を示してくれました。「どんな話なの?」と尋ね返された時は、とても嬉しかったのを覚えています。実にいい会話が生まれました。

 自分から歩み寄ることで、人生はもっと豊かになるものです。それは年老いてからだけの処方箋ではありませんし、夫婦だけのノウハウでもありませんが。

(野田 稔:明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授)