
ワインのないジンバブエ共和国から南アフリカ共和国に逃れた難民4人が、世界最高峰のブラインドテイスティング版オリンピックで世界一を目指すドキュメンタリー。先進国の白人たちが多くを占めるスノッブな世界に4人がどこまで食い込むか──。連載「シネマ×SDGs」の33回目は、国とは故郷とは何かを考えさせられる感動作「チーム・ジンバブエのソムリエたち」のワーウィック・ロス監督とロバート・コー監督に話を聞いた。
* * *
コー:南アフリカのトップソムリエとなったジンバブエ難民の4人とスカイプで話をしたらとても魅力的でした。彼らは自国の圧政と経済危機の中から南アフリカへ。一人は南アに来るまでに命を落としそうになりました。元々、彼らはワインのワの字も知らなかったんですよ。なのに「チーム・ジンバブエ」を結成して、なんと「世界ブラインドワインテイスティング選手権」に挑戦する。それ自体がおとぎ話のようで心を掴まれ、映画にしたいと思ったんです。

ロス:彼らが何に一番突き動かされて大会に出場したかというと、自分たちの国に対する愛だったと思います。だからこそ、ワインを極めたいという気持ちがあった。それはいつも彼らが国旗を肩に巻いたり持っていたりすることからもわかると思います。

ジンバブエは長くアフリカの「ブレッドバスケット」と言われていたほど、特に農業においてはアフリカの中では裕福な国でした。それがここ30~40年の悪政で国が非常に悪くなってしまった。4人にはジンバブエを代表するという気持ちだけでなく、ジンバブエという国はこんなことができるんだという能力を世界に見せたい、という気持ちがあったと思います。

コー:4人は二つの国に対する思いを抱えていたはずです。それが彼らの中でどのように共存しているのかを理解するのに、個人的には少し時間がかかりました。自国を出ざるを得ない人々がたくさんいる国でも、彼らの国に対する愛は不変。その部分を、僕は映画を通して強い形で見る人に響くようにしたいと思いました。

ロス:そう、僕たち二人はその心意気に何より感服したんです。最初からこの映画はコンペティションの物語ではない、オリジンの物語だと感じていたんです。(取材/文・坂口さゆり)
※AERA 2022年12月26日号