シリーズ第一作『TOKAGE 特殊遊撃捜査隊』において、上野と涼子は企業誘拐事件に従事することになる。ひので銀行の三人の行員が誘拐され、犯人と名乗る人物から電話が入った。十億円用意しろというのだ。誘拐という“現在進行形”の事件であり、表だった捜査活動は困難。機動性と隠密性に富むトカゲへの期待は高まる……。
トカゲは、毛利文彦が特殊班の凄味を語ったノンフィクション『警察庁捜査一課特殊班』(02年)において、1986年に発生した誘拐事件を例に、犯人捕捉班の一翼を担う“オートバイ追跡部隊”として、まず登場する。犯人が身代金の運び役に対して地下鉄やタクシーを使うよう指示して警察を揺さぶった際、犯人が指示した現場に急行できる存在として描かれるのだ。トカゲが先行して現場を観察し、張り込みをどう行うべきかなどの判断材料を得るのだ。こうしたことから、トカゲは誘拐犯を追う時に絶対に外せないと述べられている。ちなみに今野敏は、この毛利文彦の著作を読み、本シリーズを始めたとのこと。今野敏のアンテナもさすがに冴えている。
さて、『TOKAGE 特殊遊撃捜査隊』は、トカゲの活躍で愉しませてくれるのはもちろんのこと、誘拐犯との行き詰まる交渉や、IT技術を駆使した犯行など、ミステリとしても魅力的だ。こうした魅力は、シリーズ第二作『天網 TOKAGE2特殊遊撃捜査隊』(10年)でさらに強化された。この第二弾ではバスジャック事件が描かれるのだが、単なるバスジャックではない。同時多発バスジャックなのである。犯人たちは何故三台のバスを同時に乗っ取ったのか。この動機不明の犯行に上野と涼子を含むSITやトカゲが挑む。彼らは捜査を通じて真相の断片を集めていくが、事件を調べるのは彼らだけではない。第一作でも登場した先輩後輩コンビの新聞記者たちも、取材を通じて真相の断片を集める。彼らが、警察と記者という距離感を維持して絶妙に連携し、犯人を特定していく様は、ミステリとして実に刺激的である。動機の“軽さ”も不気味で、それゆえに今日的で印象深い。
そして第三作『連写 TOKAGE特殊遊撃捜査隊』(14年)では、連続コンビニ強盗事件が扱われる。これもまた“現在進行形”の事件だ。ここでは、タイトルにもあるようにトカゲの眼が活かされる。パトロールを続けながらも上野は写真を連写するがごとく状況を観察し、そこから事件解決の糸口を見いだすのだ。そうしたトカゲの活躍と、ますます存在感を増す新聞記者コンビの取材により事件の真相が浮かび上がるのだが、これまた意外性たっぷりであり、ミステリファンを必ずや喜ばせてくれる。
今のところ《TOKAGE》シリーズは第三作までしか刊行されていないが、もっともっと読みたいシリーズである。捜査における組織間の主導権争いや、それとは対照的に現場で醸成されるプロ同士の連帯感などの警察小説としての魅力に満ちているし、また、足で記事を書くという先輩記者とネットやスマホを駆使して効率化を目指す後輩記者のコンビの活躍も愉しい。前述のように事件の構造も凝っている。上野が、つまらない自尊心よりも捜査を進めることを優先する姿勢も素敵だ。とにかく満足必至のシリーズなのである。第四弾を切望する次第である。