経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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12月20日の日銀金融政策決定会合後に、慣例に従って黒田東彦総裁の記者会見が行われた。その記録を読んで、何とも言えない気分になった。
何ページにもわたって、同じことを読んでいる。そういう風に思えてしまった。あれ、これさっき読んだ。ページを繰り戻してしまったか? そんな風に錯覚してしまった。押し問答の焦点は、「これは利上げか、利上げにあらずや」というテーマである。
今回の政策決定会合で、日銀は10年物国債利回りの許容変動幅を0%±0.5%程度に改めた。これまでの許容変動幅が0%±0.25%程度だったから、10年債利回りの上限は0.25ポイント引き上げられたわけである。
だが、黒田総裁は、これは利上げではないと言う。やっていることは、国債の金利体系の正常化だ。これが黒田流の理屈だ。
国債には、様々な償還年限がある。それらの多くについて、このところ、利回りが上昇している。欧米の金利上昇に引っ張られているのである。だが、日銀の政策目標となっている10年債の利回りだけは上がらない。そうこうするうちに、10年物よりも短い年限の国債の利回りが、10年物のそれを上回るという逆転現象も発生してしまうようになった。これでは、金融市場が混乱する。企業の事業債発行にも支障が生じるかもしれない。それはまずい。だから、10年物国債の利回りが、金利体系のまともな位置に落ち着くように、許容変動幅を調整した。利上げや金融引き締めは一切意図していない。こういうわけだ。