以上がこの図の意味するところであり、アマゾンの創業時からの戦略目標に他ならない。

「顧客の経験価値の向上」は、Amazon.comでの買い物に付随する、顧客のあらゆる経験が対象となる。例えば「サイトが見やすかった」「良い商品が安かった」「他の顧客のレビューから貴重な情報を得られた」といった経験だ。「配送が迅速で、しかも無料だった」というのももちろん含まれる。

 アマゾンは、これまでに「顧客の経験価値」を高めるさまざまなイノベーションを実現している。

 経験価値、すなわち顧客がどういう経験に価値を見いだすかを判断するには、顧客について詳細に知る必要があるだろう。田中氏は本書で、アマゾンがその手段として「ビッグデータ×AI」という先端技術をフル活用していることを指摘している。

「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といった「リコメンド機能」が、その代表といえる。

 アマゾンは顧客の属性や行動履歴、購買履歴などのビッグデータをAIを使い徹底的に分析することで、顧客の特徴や顧客同士の類似性、商品同士の類似性や関連性などを判断している。これはたくさんの顧客と、さまざまな売り手による多彩な商品が揃っていてこそ実現するものだ。

 そしてそれにより個々の顧客にカスタマイズ(最適化)された情報を届けられ、顧客の満足度を高められる。

 アパレルは、顧客のカスタマイズニーズが大きい領域だ。時間帯や出かける場所、その日の気分などによって選ぶ服は変わる。

 つまりアパレルは、アマゾンの「カスタマイズできる」という強みを存分に生かせる事業領域なのだ。アマゾンのアパレルへの進出を唐突に感じた人もいるかもしれないが、同社のそもそもの戦略を理解すれば、アパレルがさらなる成長のための新たな打ち手として選ばれたのも頷けるはずだ。

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