目に見えないものについて考えるのは難しい。文字にしたり図にしたりして考えてみるが、なかなかうまくいかない。それこそ雲をつかむよう。

 しかし、だからこそ古代から人間はその種の問いにとりつかれてきた。松浦壮の『時間とはなんだろう』が多くの人に読まれているのも、根底に普遍的な知的欲求があるからだろう。

 本書は素朴で古典的な時間観から現代の物理学の最先端までを、一気に、そして平易に解説する。ありがたいことに、難しい数式はほとんど出てこない。そのかわりにイラストが説明してくれる。

 空間と重力と時間。宇宙と時間。ぼくたちの日常の感覚では、それぞれ別のもの。ところが物理学が進歩するにつれ、それらは密接にかかわっていることがわかってくる。時間観の歴史は、科学的な発見の歴史だ。

〈時間をその内に含む「時空」は、それ自体が揺れ動く動的な存在であると同時に、その各点各点に複数の内部空間として「場」を備え、私たちの目には、場の量子振動が素粒子として、そして、場の共振が素粒子間に働く力として映る〉という文章が、最終章に出てくる。

 時間はぼくたちの外にあるものかと思いきや、すべての物質のなかのミクロな領域のなかにあるというのである。しかもこのミクロな領域は、光年の彼方にある星も、ぼくたちの身体も同じ。壮大すぎてイメージできない。

 いきなり最終章だけ読むと「はあ?」ってな感じなのだが、第1章から順番にていねいに読んでいくと、「なるほど」と思う。腑に落ちたときの快感がたまらない。考えることの醍醐味だ。

週刊朝日  2017年11月10日号