親と過ごす時間が
子どもに与える影響とは


 そもそも、自然・文化・社会交流から得る「体験」は、彼らの成長にどのような影響を与えるのだろうか。

「イギリスでは、2000年に生まれた子どもを対象に長期間追跡調査をする『ミレニアム・コホート研究』(Millenium Cohort Study)が行われています。それによると、本の読み聞かせや宿題の手伝いなど、子どもの『勉強』に母親が時間を使うと、子どもの認知能力(学力テストやIQテストで計測できるような能力)を高めることが明らかになっています(*)。ちなみに、勉強への時間投資のほうが認知能力に対する効果が大きいものの、体験の時間投資も認知能力を高める効果があるようです」
(*)…Bono, E. D., Francesconi, M., Kelly, Y., & Sacker, A. (2016). Early maternal time investment and early child outcomes. The Economic Journal, 126(596), F96-F135.


 加えて、文部科学省の調査では、子どもの頃にさまざまな体験をすると「やる気や生きがい」「思いやりや人間関係(構築)能力」など、学力以外の能力も向上するとされている。「体験」は学力だけでなく、個人のパーソナリティの形成にも深く関わっているようだ。

 また、幼少期は母親の時間投資によって得られる効果が特に大きい、と中室氏は話す。

「前出のイギリスの研究では、子の年齢が幼いほど時間投資の効果が高く、年齢とともに低くなっていくことが示されています。たとえば、3歳と7歳とでは、3歳のほうが勉強の時間投資の効果が高く、7歳の子はほとんど効果がみられませんでした。しかも、3歳時に勉強の時間投資を十分に受けることは、年齢を重ねてからも、認知能力をさらに伸ばす助けにもなることが示されています」

 そして、大切な親子の時間は、“長さ”だけでなく過ごし方の“質”も重要だ、と中室氏。

「アメリカの生活時間調査を用いた研究では、親子の時間の過ごし方にも着目しています。一緒に過ごす時間が『子どもを中心とした活動』だったり『親子の間で適度な会話や交流』だったりした場合は、質の高い時間に分類されるのです。たとえば、親子で会話をしながら食事をするのは“質の高い時間投資”ですが、会話を交わさず、ただ一緒にテレビを見るだけでは質が高い時間には分類されません。こうして分類すると平日の『質の高い時間』は、子どもと過ごす時間全体のうち、3分の1程度のようで、これはアメリカ以外の国でも同様の傾向があります。この時間投資のうち、質の高い時間こそが子どもの人的資本形成に重要であることもわかっています(**)」
(**)…Price, J. (2008). Parent-child quality time does birth order matter?. Journal of human resources, 43(1), 240-265.

 見方を変えれば、3分の1という限られた時間の質を高めることで、我が子に好影響を与えられる、ともいえそうだ。

 また、これまで行われてきたのは、主に母親から子どもに対する時間投資の調査だったが、近年は父親が行う時間投資についても、検討が行われているという。

「アメリカの研究(***)によると、母親と父親が行う時間投資には同じだけの価値があるとされています。また、母親による時間投資の価値が高い時期は、幼少期に集中していますが、父親の時間投資の価値は子どもの年齢にあまり依存しないことを示した研究もあるのです。お父さんにもぜひ、お子さんと質の高い時間を過ごしてもらいたいです」
(***)…Del Boca, D., Flinn, C., & Wiswall, M. (2014). Household choices and child development. Review of Economic Studies, 81(1), 137-185.

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