しかし、この場面で小笠原さんが、2塁ベースに向かって気迫の全力疾走をみせました。審判の判定は……セーフ! ソフトバンクの守備を、日本ハムの全力疾走が上回った瞬間でした。
その間、2塁から3塁へ、僕も全力疾走です。背後で何が起こっているかは見えませんから、走りながらこんなふうに思っていました。
「ボールが抜けていれば、僕が3塁まで走って満塁だ。でも、セカンドとショートの位置はバッチリだったから、小笠原さんがアウトになって試合延長かな」
ところが前方で、当時3塁コーチャーだった白井さんが、腕をぐるんぐるん回しています。外野に抜けていても、ホームに帰るということはほぼ無理な状況でした。内野で捕られていたらなおさらで、ホームに帰るというありえない状況にもかかわらず、です。
「うそ、何が起きたの?」
3塁を蹴ってから、セカンドのほうを横目で見ると、小笠原さんがセーフになっているのがわかりました。
「えー、小笠原さんセーフかよ! えっ、優勝?」
そんなことを思いながらのホームインでした。サヨナラ勝ちです。優勝です!
大歓声のなか、新庄さんが大喜びで僕のほうに駆け寄ってきてくれます。
でも僕は冷静に考えました。
「待てよ。ここは新庄さんじゃないでしょ」
瞬時に計算して、ヒットを打った稲葉さんに向かって走っていきました。
僕が稲葉さんのほうに走り出す前に、新庄さんのほうをチラッと見た様子は、テレビでも中継されていました。映像をお持ちの方は、僕の視線に注意して見直してみてください。
スポーツでも、仕事でも、勉強でも、結果を出せる人は、全力疾走をいやがりません。2006年の日本ハムは、チームのがんばりを支持してくれた地元の人たちからの応援を得て、優勝まで一気に走りきることができました。
また、プレーオフ2試合目、9回裏の最後の場面で、セカンドがセーフになるシチュエーションは、どの球団も想定していなかったはずです。
奇跡が起きたのは、全力で走っていた僕たちへの、神様からのプレゼントだったのではないかと思っています。
当たり前のように全力疾走していれば、その様子は、人からも、神様からも見られているのです。