忙しい毎日から解放されるゴールデンウィークは、映画の世界に浸る絶好の機会。何を見たらいいか迷う人のために、識者が「気持ちよくおなかが減る映画」「知るきっかけを作る韓国映画」を教えてくれた。AERA 2023年5月1-8日合併号から。
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■気持ちよくおなかが減る映画、19世紀のヴーヴ・クリコの味は?
生きていれば誰もが食す。食事や料理のシーンは、人のあらゆる感情の描写に欠かせません。
大鍋から立ち上る蒸気、食材に注がれる熱々の油、大皿にドーンと盛り付けられる1尾の鯉……。目や耳はもちろん、舌や鼻腔まで強烈に刺激される感覚に陥った映画といえば、台湾映画「恋人たちの食卓」。出てくる料理は100種類以上。食いしん坊の私が大興奮した傑作です。
豪華な宴席料理といえば、「バベットの晩餐会」も外せません。こちらはアルコール類にも大注目! かつてパリで厨房の天才と謳われたバベットが作り出すフランス料理はため息が出てしまうような芸術品です。食すのはデンマークの小さな寒村に住む、粗末な食事が常の教会の信者たち。「魔女の饗宴(きょうえん)だ」と警戒しながら晩餐会に臨んだ彼らの表情の変化に、口元が緩んでしまいます。それにしてもシャンパーニュ、ヴーヴ・クリコの1860年ものってどんな味? 飲んでみたいっ!
「大統領の料理人」「ジュリー&ジュリア」「ソウル・キッチン」……など料理人もしくは料理をする人に焦点を合わせた映画も数知れず。貫禄ある料理人を信用している私にとって、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」主演のジョン・ファヴローは理想的。料理を「人生最高の喜びだ」と語る彼の料理は絶対おいしいと確信します。
食べる行為は愛と密接に絡み合います。ベトナム映画「青いパパイヤの香り」やイスラエル映画「彼が愛したケーキ職人」、そしてインド映画「めぐり逢わせのお弁当」。食をモチーフにひねりの利いた愛のドラマを堪能してはいかがでしょう。日本映画なら「お茶漬の味」。どんな豪華な食事よりもお茶漬けが夫婦の関係を親密なものとしてくれる。愛の溢れる食卓は見る者も幸せな気持ちにしてくれます。(フリーランス記者・坂口さゆり)
■食は愛と絡み合う
○シンプルなお茶漬で愛を味わう
「お茶漬の味」/小津安二郎(1952年)/BD 5170円(税込み)/DVD 3080円(税込み)
○彼の料理は絶対おいしい!
「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」/ジョン・ファヴロー(2014年)/BD 1980円(税込み)/DVD 1408円(税込み)/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
「恋人たちの食卓」/アン・リー(1994年)
「バベットの晩餐会」/ガブリエル・アクセル(1987年)
「青いパパイヤの香り」/トラン・アン・ユン(1993年)
「彼が愛したケーキ職人」/オフィル・ラウル・グレイツァ(2017年)
「めぐり逢わせのお弁当」/リテーシュ・バトラ(2013年)
「大統領の料理人」/クリスチャン・ヴァンサン(2012年)
「ジュリー&ジュリア」/ノーラ・エフロン(2009年)
「ソウル・キッチン」/ファティ・アキン(2009年)