●『GALAC(ぎゃらく)』最新号のご案内
AmazonでGALAC8月号を買う

この記事の写真をすべて見る

 初回冒頭、新幹線内で繰り広げられたハードアクションは圧巻だった。小栗旬の体さばきを見ればどれだけトレーニングを重ねたかは一目瞭然。1話の三元雅芸、2話の山口祥行など、敵役に日本を代表するアクション俳優を配したことも含め、否応なしに「これで勝負するんだ」という強烈な矜持を感じさせられた。

 ところが回を追うごとに、アクションよりも気になる仕掛けに気づかされる。それは「悪が裁かれずモヤモヤを感じる」結末。刑事モノの定番であり、高視聴率の近道とされる「勧善懲悪でスカッと解決」とは真逆だったのだ。

 女性をもてあそび自殺に追い込んだ大臣の息子が罰を受けずに終了。児童買春したうえにジャーナリストを殺した政治家は逆に出世。国会議員に対する父親の仇討ちに失敗した兄弟が互いの頭を撃って自殺。警護していた大学教授が国家の雇った暗殺者に殺される。こんな不快感あふれる結末が毎週続き、最終話も総理大臣とその息子の罪が暴かれず、主人公たちが絶望に打ちひしがれるという形で終わった。

 国家と権力者の罪は隠蔽され、主人公はやり切れない気持ちをごまかすように酒をあおる。この繰り返しにネット上では視聴者の反発が続出。なかには「時間を返せ」と強い怒りをぶつけるものもあった。しかし、これは「勧善懲悪でスカッと解決」に慣れたことによる違和感ではないか。実際、反発の声がある一方、「今回はどんな救いのない結末が来るのか」と不快感を待つような声も徐々に増えていた。少数派とはいえ、その不快感をエンタメとしてとらえ、やみつきになっていた視聴者がいるのだ。

 2年前の春、「相棒」「〇〇妻」「ウロボロス」でアンハッピーエンドが続いて、反発の声がネット上を埋め尽くした。以降、大団円が大半を占めていただけに、当作の仕掛けは勇猛果敢に見える。確かに昨今の視聴者は時間へのコスパ意識が高く、納得できない結末には怒りの声をあげる。しかし、視聴者の顔色をうかがうような予定調和ばかりでは飽きられるだろう。

 そんな不快感をもたらしたのは、原案・脚本の金城一紀。同じ小栗旬主演の「BORDER」でも、主人公が犯人を殺すという不快感極まりない結末で驚かせたことを覚えている人は多いだろう。当作で「不快感」が、金城という作家のカラーとして定着した感がある。

 正直言うと、アクションはカッコよさと自己満足の紙一重であり、人物描写には物足りなさを感じた。ただそれでも「視聴者と作り手に一石を投じた」という意味は小さくないはずだ。

※『GALAC(ぎゃらく) 8月号』より

木村隆志(きむら・たかし)/ここまで一方的に「国家と権力者が悪い」と決めつけると、かえって視聴者に「それほどではないでしょ」と思わせてしまうのが難しいところ。視聴者は当作のそこかしこに、作り手の誘導を感じていた。

[AERA最新号はこちら]