『フォーチュネイト・サン:マイ・ライフ、マイ・ミュージック』
<br />ジョン・フォガティ著
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『フォーチュネイト・サン:マイ・ライフ、マイ・ミュージック』
ジョン・フォガティ著
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『フォーチュネイト・サン:マイ・ライフ、マイ・ミュージック』
ジョン・フォガティ著

●第7章 スージーQより

 1967年10月初旬、ファンタジー・レコードのセールス・マネージャーをしていたソウル・ゼインツが、彼の家でのミーティングに俺たちを呼び出した。
 そして彼は、「ファンタジーをウェイス兄弟から買い取ったばかりなんだ。で、私と君たちで契約を交わしたいと思ってね」と言った。
 ソウルは俺たちの友人のように思われた。俺たちが会社に行くと、彼はいつも、デスクに向かい仕事をしていた。だから、少しクールなイメージがあった。彼は今、責任者になろうとし、俺たちに本当のチャンスを与えたいと思った。

 俺たちは開口一番、「バンド名を変えてもいいですか?」と彼に尋ねた。思わず発した一言だった。俺たちは、マックス・ウェイスに名づけられた“ゴリウォッグズ(グロテスクな男たち)”というバンド名を嫌悪していた。
 ソウルは、「ああ、もちろんだ」と答えた。
そこで、俺たちが問いただした。「ようやく本物のスタジオに入って、本物のレコーディングができるんですか? 間に合わせのスタジオではなく?」
 彼は、「ああ、それは大丈夫だと思う」と言った後、付け加えた。
「君たちと新たに契約を交わしたいんだ。私がレーベルのオーナーになるわけで、ウェイス兄弟に君たちが彼らの契約下にあると言われたくないからね」

 俺たちは顔を見合わせた。バンドは、前よりもかなりハードに仕事をこなしているような気がした。だが、マックス・ウェイスの方針に従い、このまま活動を続けるつもりはなかった。実際、バンド名を変えて、音楽の仕事で生計を立てたいと思っていた。俺たちはまだ、ひどく貧乏だった。成功することなど、とても考えられず、雲をつかむような話だった。

 ダグ(・クリフォード)がソウルに尋ねた。「もしうまくいって、俺たちが成功したとしたら、どうなるんですか?」
 ソウルが答えた。「この契約を破棄して、新しい条件で契約を結ぶつもりだ」
 俺の記憶では、彼はその後、「私たちはみんな、この件に関して共有し、平等に分配に預かる」と言った。
 
 俺たちはソウルを仲間だと思った。彼は金がなく、5年乗るステーション・ワゴンをファンタジーの事務所代わりにしていた。そして、彼の説明によれば、俺たちはビジネスに一枚噛んでいた。だからもう、ゴリウォッグズというしがないグループではなく、このビジネスを成功させるパートナーだった。俺たち4人は、ファンタジー・レコードとしてソウルと一体化したように感じた。
 
 俺たちはすぐに、新しいバンド名を考えはじめた。メンバーがそれぞれ、頭をひねったものの、感心できないネーミングばかりだった。例えば、ステュ(・クック)が電話で知らせてきたのは、“ハードウッド”、ダグが閃いたのは、”ゴッサマー・ワンプ・アンド・ガンビー”というように。

“クリーデンス”というワードを思いついたのは、兄のトムだった。俺たちの友人が住むマンションに、クリーデンス・ヌーボールと名乗る管理人がいた。彼は南アフリカ出身で、それが本名だった。そこでトムは、彼の名を借りて、“クリーデンス・ヌーボール・アンド・ザ・ルビー”を提案した。

 俺は歴史、特にアメリカ史が好きなこともあり、“ウイスキー・リベリオン”を思い出した。語感がどことなくファンキーで、気には入った。また、バンドが再生する、再出発するという意味をこめて、「“ウイスキー・リヴァイヴァル”はどうだろう?」とも思った。
 だが、どれも今一つで、ピンと来るバンド名は、なかなか見つからなかった。

 約3か月後、クリスマス・イヴにテレビを見ていると、オリンピア・ビールのコマーシャルが流れた。それは、一面が緑に覆われ清水が湧き出る森の美しい映像で、キャッチコピーが、“イッツ・ザ・ウォーター”だった。
 画面はその直後に、水質の浄化を呼びかける白黒の公共広告に切り替わり、たばこの吸い殻や発泡スチロールのカップで汚染された川と、「クリーン・ウォーターに連絡を」というメッセージを映し出した。
 
 その“クリーン・ウォーター”が、俺の中で“クリア・ウォーター”に変換された。俺は飛びついた。「“クリアウォーター”……これだ!」
 それは少し、ネイティヴ・アメリカンを連想させた。俺は彼らの言い伝えや歴史、ジェロニモやシッティング・ブルのような戦士たちに愛着を感じていた。
 ほとんど同時に、“リヴァイヴァル”というワードが蘇った。“クリアウォーター・リヴァイヴァル”―ユニークだが、何かが足りなかった。
 そして突然、“クリーデンス”が頭に浮かんだ。クリーデンス(credence)は、信頼や信用という意味があり、気高い感じがした。また、“クリアウォーター”には、建設的な雰囲気、一つの観点,歴史感覚、文化、アメリカーナがあった。
 俺は秒速で、三つのワードを幾通りにも並べ替えていた。

Fortunate Son: My Life, My Music
By John Fogerty

訳:中山啓子

[次回8/7(月)更新予定]