俳優、映画監督、ミュージシャンなどとして、ジャンルの壁を飛び越えて活躍する著者の自伝的エッセイ。
内向的で自分にまったく自信がなく、コンプレックスの塊だった少年時代。映画を夢中で観て、仲間と8ミリ映画を作っていた学生時代。顔面模写でデビューしてからも違和感が募る一方だったテレビ業界──。そこからは野心も自信もなく、人並み以上に繊細で傷つきやすい著者の姿が浮かんでくる。その後、役者としての地位を確立、映画監督として高い評価を得ても、決して思い上がらない姿勢は変わらず、その立ち位置からの言葉は、独特でありながら妙に腑に落ちるところがある。第4章のタイトルは「『無能の人』として生きる」だ。自分の居場所や目標が定まらないときに読めば、指針となる光を照らしてもらえそうだ。
※週刊朝日 2017年5月26日号