田原総一朗・ジャーナリスト
田原総一朗・ジャーナリスト
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 ジャーナリストの田原総一朗さんは、岸田文雄首相襲撃事件を受けて、危惧していることを語る。

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 4月15日午前11時25分ごろ、衆院和歌山1区補選の自民党候補の演説会場で首相が襲撃される事件が起きた。和歌山市の雑賀崎漁港で、演説台の近くで待機中だった岸田文雄首相に向かって金属製とされる銀色の筒状の爆発物が投げつけられ、爆発物は約50秒後に白煙を上げて爆発した。岸田首相は警護員らとその場を離れて無事だったが、男性警察官と聴衆の一人だった70代の男性もけがを負ったという。

 新聞各紙の報道によれば、逮捕された木村隆二容疑者(24)は、2022年7月の参院選に立候補しようとしたのだが、30歳以上でなければ参議院の被選挙権はないため実現しなかったのだという。このことを不満として国に賠償を求めて訴訟を起こすも、請求を棄却されて、不満を募らせていたのだと見られている。

 当然思い出されるのが、昨年7月に安倍晋三元首相が銃撃された事件である。山上徹也被告は、母親が旧統一教会の信者で、全財産を旧統一教会に投げ出し、そのために生活がぶち壊された。父親と兄を自殺で失っており、旧統一教会を憎悪した。幹部を殺害しようとしたのだが、それが不可能だったので旧統一教会の宣伝マンと見立てた安倍元首相を銃撃したのであった。

 こうした事情が明らかなので、山上被告に同情的な論調も出ていたのだが、今回の事件は現時点ではどうも動機があいまいだ。とはいえ、山上被告同様にローン・オフェンダーと称されている。ローン・オフェンダーとは、組織的犯行ではなく、単独でテロ行為に及ぶ者を指す。木村容疑者は安倍元首相銃撃事件の模倣犯ということになるのだろうか。

 自分の欲求不満を解消するために要人を殺害しようとした。一種の自己顕示欲の暴発ということになるのだろうか。

 戦前には要人殺害事件が相次いで起き、時代を大きく変えてしまった。1921年に、格差問題に苦しんだ青年が財閥のトップを暗殺した。青年は非難されたが、財閥の遺産相続が話題になると批判の矛先は財閥へ移り、青年は英雄視された。1カ月後、別の青年による原敬首相暗殺事件が起き、五・一五事件や二・二六事件など戦前期のテロ連鎖のきっかけになった。

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