強烈なタイトルである。適菜収『安倍でもわかる保守思想入門』。「安倍でもわかる」なら誰でもわかる、サルでもわかる!? 安倍首相の新旧の発言を取り上げてダメを出す一方、保守とは何かを解説する。それが本書のスタイルだ。
〈保守とは何か?/大事なものを「保ち守る」ということです。/その基盤になるものは常識です〉〈乱暴な人がいたら、「乱暴はやめろ」と警告する。/バカが総理大臣をやっていたら「辞めろ」と言う。/それが保守です〉
という観点からいけば、安倍首相の発言はことごとく保守の王道に反している。まず常識がない。
〈訂正でんでんという指摘は全く当たりません〉(17年1月24日)に関しては〈「云々」が読めなかったわけで、要するに日本語に対する愛がない〉と一刀両断。
〈いまや日本人は国際的な平和と安定のためであれば、自衛隊が海外での活動を行うことをためらいません〉(07年1月12日)も言語道断。〈猿でもわかる話だが、日本人も自衛隊も日本のために戦うのである〉。ネオコンの末路を思えば〈幼稚なグローバリストが国のトップにいることがどれほど危険であるかわかるだろう〉。〈私は、さらに構造改革を進めたい〉(07年2月5日)は保守の対極にある発想だし、〈私どもが進んでいる道は間違いのない道でございます〉は単に迷惑。〈保守は、「間違いのない道」という発想を根底的なところで否定する〉からだ。
〈保守主義者は変化を嫌うのではない。非常識な変化を嫌うのだ〉と著者はいう。しかし〈今の日本では、「保守」を名乗る人物が、特定のイデオロギーに基づき、朝から晩まで抜本的改革を唱え、伝統の破壊に勤しんでいる〉。
したがって「安倍は偏狭なナショナリストだ」「排外主義者だ」「復古主義者だ」といった左翼側からの批判もすべて的外れ。
安倍は「極左グローバリスト」だと著者は結論するのである。福田恆存、小林秀雄、三島由紀夫らの思想に共鳴する日が来るとはまさか思わなかったけど、なにせいまの日本は非常識な国だからね。
※週刊朝日 2017年5月5-12日号