『ライヴ・イン・ジャパン1996』ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ
『ライヴ・イン・ジャパン1996』ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ

 1996年は前年から23組減となる114組が来日した。10~11年前の水準だ。29組で首位となる新主流派/新伝承派/コンテンポラリーと、26組のフュージョン/ワールド/スムーズ、同数の主流派とは大差ない。18組のヴォーカル、7組のフリー、6組のモダン・ビッグバンド、各1組のトラッド/スイングが続く。下げ幅が大きいのは14組減のフュージョン~と7組減の新主流派~だ。あとの順位は前年から変わらない。

 参加作は前年から2作減の23作で、1作はスタジオ録音とライヴ録音に二分される。重複して数えると、ホール/ホーム録音を含むスタジオ録音は14作、日本人との共演は13作で3作が和ジャズだ。ライヴ録音は10作、日本人との共演は6作あり和ジャズは1作のみ。和ジャズ1作と長期滞日者の2作を除く候補作7作から、ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラの『ライヴ・イン・ジャパン1996』を取り上げる。選外作の評価や除外要件はデータ欄の【1996年 選外リスト】をご覧いただきたい。

 同オーケストラはベルリン市の後援により1987年に結成された。アレキサンダー・フォン・シュリッペンバッハと夫人の高瀬アキが率いたフリージャズ・ビッグバンドだ。約10年間にわたって活動し、1989年にECM盤を、93年にFMP盤を、96年に推薦盤を残している。ラスト作となる推薦盤は唯一の来日時に神戸と東京で録音された。総勢18名、日本から五十嵐一生(トランペット)ら5名が臨時で参加した欧日混成だ。プログラムは同夫妻のオリジナルと、ジャズやブルースのオリジナルに二分されている。作品至上でもインプロ至上でもなく新旧の素材を独自の調理で供するというお膳立てだ。

 幕開けは高瀬編曲の《エリック・ドルフィー・メドレー》、3部構成で17分に及ぶ。

 〈ザ・プロフェット〉は厚くブリリアントなテーマ合奏に始まり、ゲルト・デュデック(テナー)、ヘンリー・ロウサー(トランペット)らの真っ当なソロがスポットされる。見せ場はポール・ラザフォード(トロンボーン)とポール・ローヴェンス(ドラムス)のフリーデュオだ。第一人者がブリブリ言わせたあと、短いテーマ合奏から次に滑り込む。

 〈シリーン〉はテーマ合奏抜きで、鬼才エヴァン・パーカー(ソプラノ)が切り込む。重音奏法と循環呼吸法によるグチョングチョンのフリーインプロで咆哮しまくったあと、デュデック(クラリネット)とルディ・マハール(バスクラ)を従えテーマとドルフィー流!のソロを吹奏して片山広明(バリトン)と交代し、3管のテーマ合奏で次につなぐ。

 〈ハット・アンド・ベアード〉は夫妻のフリーデュオがひとしきり、マハールを先導役に厚いテーマ合奏に入る。原曲の跳ねるような感覚を祝祭感に変換した心浮き立つ合奏だ。夫妻とデュデック(クラリネット)のフリーインプロを経て賑やかなテーマ合奏で終える。

 シュリッペンバッハ作の《モーロックス》は夫妻のフリーデュオに始まり、集団即興、林栄一(アルト)の高速無伴奏ソロ、集団即興で締める。林のブチ切れぶりと暴風逆巻き混沌渦巻く集団即興が実に痛快、60年代アヴァンギャルドをも彷彿させる奮闘巨編だ。

 《詩情の哀》はコルトレーン作の《至上の愛》をモチーフにした高瀬のオリジナルだ。お馴染みの反復フレーズを片山が唱え、伸びやかなテーマ合奏、デュデック(テナー)のトレーン流のソロ、剣呑な空気がおおう集団即興が続き、片山の反復フレーズで終える。トレーンの抹香臭さとは無縁で、第一級のパロディと呼びたくもなるハッピーな演奏だ。

 W・C・ハンディ作の《ウェイ・ダウン・サウス・ホエア・ザ・ブルース・ビガン》はシュリッペンバッハの編曲。ソロ・ピアノに始まり、ロウサーがテーマを吹奏、そのままテーマ合奏をリードする。やがてブルージーな曲想は見世物小屋風に一変し、マハール、片山がソロをとり、集団即興やデュデック(クラリネット)の囀りを交えた合奏のあと、ご陽気なテーマ合奏で締めくくる。緻密にしてワイルド、無闇に楽しい。本作の白眉だ。

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