「本との出会い」は、新しい知識や価値観との出会い、そして人生を豊かにするきっかけとなる、素晴らしい経験(写真:Getty Images)
「本との出会い」は、新しい知識や価値観との出会い、そして人生を豊かにするきっかけとなる、素晴らしい経験(写真:Getty Images)
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 各界の著名人が気になる本を紹介する連載「読まずにはいられない」。今回は文筆家・モデルの伊藤亜和さんが、『つまり“生きづらい”ってなんなのさ?』(桜林直子著)を取り上げる。AERA 2025年9月1日号より。

【写真】さまざまな角度から”生きづらさ”を見つめ、考える対談集

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「生きづらい」

 十分な酸素に囲まれ、だいたいの日は体調に問題がない。心臓は絶えず動いて、私たちは生きている。でも生きづらい。近頃あらゆるところで見かけるようになったこの表現は、人間、とりわけ発達した文明社会の中に生まれた人々の、全く新しい試練のように思える。生きづらい、と一口に言ってもその原因と状況にひとつとして同じものはなく、だからこそ容易には正体が見えない。かつての人々が夜道に漂う不穏な気配に「妖怪」というかたちを与えたのと似ているような気がする。現代の私たちは、自らを取り囲む得体のしれない居心地の悪さを“生きづらさ”と呼ぶことにしたのかもしれない。

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