2人のビッグスマイル(武内陶子さん提供)
2人のビッグスマイル(武内陶子さん提供)

 さて、この北野兄弟、育った家が本当に面白いのだが、先生、昔の思い出もたくさん語ってくださった。お父さんの菊次郎さんは徳島の生まれで(おお、私と同じ四国だったのか!と嬉しくなる)、浅草の花川戸で職人をしていらした。お母さんのさきさんは千葉の出身。そしてなんといってもこの、母ちゃんの「さきさん」だ。あと50年遅く生まれていればすごいキャスターになっただろうね、とたけしさんともよく話すのだそうだ。頭の回転が速く、物覚えがよく機転が利いて、近所の人たちからは「はかせ」ってよばれていたんだって。

 そのお母さんの言葉を今でも大切にしているという大さん。「ちょっと教えましょうか?」と嬉しそうに語り始めた。

 まずは、「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」。偉くなるほど謙虚でいろという教えだ。

「自慢高慢バカがする」。さきさんは、バカな奴ほどいばりくさるとおっしゃっていたそう。続いて「一杯の酒に城が傾く」。一杯の酒とは、ただ酒つまり賄賂のこと。城は地位や身分、財産のこと。つまり悪いことはしてはいけないという教えだ。

「上見れば、ほしいほしいの星だらけ。みの着て暮らせ、おのが心に」という言葉も紹介してくださった。上を見れば星、星、ほしいものばかり、しかし贅沢はいけない。心にはいつも蓑を着て暮らせと。明治の人らしい贅沢をいましめる言葉だ。

 そして、「若い頃は苦労は買ってでもしろ」ともよく言われたと。「母ちゃん、苦労なんてしないほうがいいじゃないかって言ったらね、母ちゃんは、今はわからないだろうが、おまえにこの言葉を預けておくって言ったんだよね。おまえが私の年になればわかるはずだって。その通りでしたね。だから、若い人にモノを伝える時にはこうして、預けておくっていうのがいいと思うんだよね」と笑っておっしゃる大さん。ほんと、この「預けておく」はとてもいい言葉だ。ずっと心に残り続けるだろうし、自分で考え続けることになるから。さきさん、さすがだなあ。

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