

試合を重ねるごとに注目度を高めていった横山だが、準決勝の日大三(西東京)戦では無安打。チームも敗れた。しかし、見せ場はあった。
1点を追う二回、無死一、三塁。内角低めに沈む変化球を巧みなバットコントロールですくい上げ、同点犠飛に。
同点のまま迎えた九回裏、サヨナラを目指す県岐阜商の先頭打者は横山。
「打席に立つ前にすごく大きな声援が聞こえて。ここまでやってきてよかったなって。最後のほうは捉えきれずに、打てなかった反省もあるんですけど。試合ごとに高まる声援はプレッシャーではなく、プラスの気持ちに変えてしっかりプレーできました。その声に後押しされて、九回の打席は最高な景色でした」
敗戦後に涙はなかった。
「ここまで来れて悔いはないので、みんなで胸を張って帰りたい」
横山はこれまでをこう振り返る。
「周囲の人がサポートしてくれて、チームメートが頑張ってくれているからこそ自分はここに立たせてもらえている。監督も自分を使うのは勇気がいることだと思うんですけど、周囲の目など何も関係なく自分を使ってくれた。とても感謝しています」
甲子園でのプレーを通して、ただ勝つだけではない、違う目標も持っていた。
「自分と同じような子がいたら、そういう子でもこの場に立てるんだぞと示したかったし、そういう子が増えて、これからいろんなところで活躍しているのを見るのが楽しみ。そういった勇気を与えられるようにと甲子園に立っていたので、それが今日までできていたのならよかったなと思います」
選手生活の未来も思い描いている。夢は大きい。
「大学進学してもっとレベルの高いところで目標を持って続けていきたい。限界まで……、いけるところならプロまで頑張っていきたいです。甲子園に来る前までは(プロは)もう遠い存在でしたが、少しは近づけたかなと思う。そんな甘い世界ではないとわかっているので、もっともっとレベルアップしていきたい」
自身の性格を「真面目」と分析する通り、取材中は表情を変えずに誠実に質問に答えてくれたが、「自宅に戻って食べたいものは」の質問が出ると、「お母さんのカレーライスが食べたい」と初めて笑った。
送られる声援は誰よりも大きく、観衆の心をつかんで聖地を駆け抜けた横山。この先のますますの活躍を楽しみにしたい。

(AERA編集部・秦正理)