
離婚を繰り返し考える30代女性が主人公のコミックエッセイ『離婚してもいいですか?』。日常生活で夫に感じる怒りや不満が澱のように溜まっていくも、決定的な離婚理由がないため別れる決断がなかなかできません。2014年の発売以降、多くの読者がそのリアルな心理描写に深く共感してきました。作品はどのように生まれたのでしょうか。自身も離婚経験があると打ち明ける著者の野原広子さんに聞きました。
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――『離婚してもいいですか?』を描こうと思われた経緯を教えてください。
担当編集の女性から「離婚をテーマに描きませんか?」と言われたことがきっかけです。当初、「離婚」をテーマにした作品のニーズがあるか疑問がありましたが、編集さんも私もお互いに離婚が頭をよぎるという実体験もありましたし、周りにも「離婚したい!」とつぶやいている人がけっこういたのでネタは多くありました。積極的に描きたいというより、「描ける」と思ったのが正直なところです。
その後、生活情報誌「レタスクラブ」で2作目の連載が決定しましたが、明るく、家庭的で健康的なイメージの有名誌である「レタスクラブ」でこのテーマを連載するという時点で、とても怖くて胃が痛くなったのを覚えています。連載開始後、編集者の方から「水を打ったように反応がありません」と報告を受けました。でも、徐々に「一番に読んでます」という声をいただくようになり、反応しづらいテーマなのだろうと受け止め、毎月3ページをコツコツと描きました。
一見、平和な家庭や夫婦に見えても…
――『離婚してもいいですか?』では、離婚への決定打がないというモヤモヤした気持ちを引きずる女性、そして2作目の『離婚してもいいですか? 翔子の場合』(2018年)では「夫が大嫌い」と心の中で呟きながら笑顔で生活する女性が登場します。執筆にあたり、女性たちにヒアリングや取材はされましたか?
実際に取材させていただいたのは数人ですが、参考になる人物は身近にたくさんいました。じっくり話を聞きたいと申し込むと、家庭や夫婦のことについて堰を切ったように話していただくことが多かったです。一見、平和な家庭や夫婦に見えても、普段口には出さない胸の奥に押し込んでいるものはたくさんあるのだと感じました。
たとえば、靴下の干し方で「ゴムが上か下か」で意見の違いから夫に対して殺意を感じたなど、共に生活する中で小さなことが積もり積もって怒りのマグマになっていくのだと思いました。「もうやっていけない」「いつか離婚したい」と思っている人は多いですが、具体的に何か準備をしているのかというと、そうでもなくて。それが「経済的な理由で離婚ができない」につながるように思います。それは、本気で考えていない裏返しでもあるのかもしれませんが。
「離婚したくてもできない」背景に
――女性が「離婚したくてもできない」とき、その背景には何があるのでしょうか。
「経済力」は大きいと思います。しかし、経済力があっても離婚に踏み出せない女性も多くいますし、反対に、経済力がなくても離婚する人はするので、その違いは何なのか長らく疑問に思っていました。
離婚を考えている人は、夫婦のことを考えながら、同時に生活や子ども、家族のことなどで頭の中がいっぱいになります。周りに「離婚を考えている」と相談すると、「よく考えなさい」「生活していけるのか?」など止められるのが一般的です。そんなこともあって、子どもが小さい頃は「自分一人では育てる自信がない」と思い、大きくなったら「子どもに離婚を止められる」と言って結婚生活を継続する。グルグルと考えを巡らせている迷走状態にある人が多かったです。
40代で『離婚してもいいですか?』を描き、今50代半ばになって感じるのは、離婚したくてもできない理由は「自分の意志」なのではということです。一歩を踏み出す強い意志があるかないかなのではと思うようになりました。
意志を持つ人は、離婚をするために働き、貯金し、情報収集などの行動に出る。離婚という選択をしなければ自分が壊れてしまうなど、離婚の必要性の強さが行動力を生んでいる気がします。しかし、働けない事情や住宅ローン返済、介護など人それぞれ離婚したくてもできない理由があるのも事実です。