
夫婦ではなく親子の関係性で気づいたこと
――離婚をテーマに取材、執筆される中で夫婦ではなく、親子の関係性で気づいたことはありますか。
取材を通し、「夫に言いたいことが言えない」人は親に対しても同様のケースが多く、幼少期からそのように“育てられ”、“育ってしまった”のかもしれないと思いました。当たり前と思っていた環境を、「あれ? もしかして、うちの親おかしくない?」と疑問を持つことも大事。親のやり方がダメだったと否定する意味ではなく、新たな視点を得ることが大切なのではと思います。
1作目は大人が読むものとして描いたのですが、たまたまSNSで中学生らしき男の子の「読んで悲しくなった」と言った投稿を目にした時、とっさに「ごめんなさい」と心の中で謝りました。主人公は子どもの幸せを一番に考えてはいるのですが、「子どもの心の奥にあるものを想像したことはあっただろうか?」と思い、2作目では子どもの視点も描いてみることにしました。
子ども時代に親が離婚した経験のある方にも取材しました。多くは、言葉が少なく、親の悪口もほぼ口にされませんでした。でも、そこから滲み出る「本当は両親に言いたいことがいっぱいあるけど、口に出したくない」という思いも伝わってきて、胸が痛かったです。
自分の何が悪かったのかを知るために
―― 2作品を通して、読者からどのような声が届いていますか。また、1作目出版から10年以上経ちますが、その間で寄せられる感想に変化はありますか。
「家に置いておきづらい本ナンバーワン」と言われたことがあり、電子書籍がある時代で良かったと思います(苦笑)。夫に対する不満や家庭でのつらい状況を切々と綴ったお便りをいただくこともあります。既婚男性からは妻の参考書的なものとして読んでいるという声をよく聞く中で、「もし妻が読んで共感したらどうしよう……」など怯える声や、離婚経験のある男性からは、自分の何が悪かったのかを知るために読んでみたという声もありました。
1作目を描いていた最初の頃は「離婚したいと思っています」という渦中の声や共感の声が多かったのですが、最近は「離婚しました」という報告や、「もう人生後半なので諦めました」という声も届いています。取材を受けてくださった方の中には長く夫婦を続けているうちに仲良しに戻った夫婦もあり、夫婦って色々あるなと感じています。
実は、私もこの2冊を出した後に離婚し、夫婦の気持ちが良くも悪くもわからなくなったこともあって、シリーズ3作目はないと思います。ただ、もしも3作目を描くとしたら、二人の主人公たちとは違うタイプの女性の話を描いてみたいです。
「自分はどうしたいのか?」を確かめて
――「離婚したくても経済的にできない」女性へのメッセージをお願いします
離婚したいと思っていても、経済的な安定を取って結婚生活を続ける選択もあると思います。それでも、心身に異常が出てくる、命に関わるなど「離婚したい」を超えて「離婚の必要性」がある場合もあるはずです。その場合、相談に乗ってくれる公共の場所もありますし、経済的支援やシェルターもあります。「自分はどうしたいのか?」「どうすればいいのか」と自分の意思を確かめて、考えて、情報を集めて、行動してください。
そして、小さなことでいいので夢を持つこともとても大切なことだと思います。離婚という文字が頭の片隅にありつつその気持ちを押し込めて日々過ごしている方に、1作目の志保、2作目の翔子という主人公たちの姿に何を思ったか、自分だったらどうするのか、客観的に考えてもらえたらと思っています。
(構成/フリーランス記者 小野ヒデコ)
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