本連載の書籍化第6弾!『鴻上尚史の具体的で実行可能なほがらか人生相談』(朝日新聞出版)
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【鴻上さんの答え】

 月夜さん。そうですか。そんなことがありましたか。

 信じていた夫に裏切られ、なおかつ、浮気相手は、友人だったんですね。それは、つらいですよね。まさに、天国から地獄ですね。

 月夜さん。どうしたいですか? もう、夫の介護をやめて、例えば、施設に入ってもらいますか? なおかつ、離婚しますか? 慰謝料を請求しますか?

 どうですか?

 もし、月夜さんが、「そうです。もう離婚だし、慰謝料だし、独りで生きていきます」と決意しているのでしたら、僕の相談は要らないでしょう。

 でも、月夜さんは、たぶん、どうしていいか分からないんじゃないですか。だから、僕に相談の文章を送ったんじゃないですか。

 月夜さんの傍に、もう一人、どうしていいか分からなかった人がいますよね。

 月夜さんの夫です。

 月夜さん。夫は、黙っていたらすむことをあえて口にしたのです。

 それも、「数十年前に、2、3年ほど不倫していた」ことをです。現在まで続いていたとか、10年以上不倫していた、ではなくて、「数十年前」に「2、3年」の不倫を、「涙ながらに」告白したのです。

 秘密を抱えたまま一生を終えることに耐えられなかったのだと思います。告白したら、愛する妻がどんな反応になるか分かっていたのに、言わないではいられなかったと僕は思います。

 えっ? 「愛する妻」じゃない? 私を愛していたら、浮気なんか絶対にしない?

 もし、夫が月夜さんを愛してなかったら、死ぬまで、絶対に口にしないでしょう。愛しているからこそ、嘘をつきたくない、誠実に向き合いたいと思って、告白したと思います。愛してない相手に、涙ながらに告白なんかしませんから。

 妻を愛していて、浮気をした自分が許せなく、心からすまないと思うから涙が流れるのです。

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