さらに、猗窩座の過去のエピソードでは、彼が人間時代に守り抜くことができなかった「大切な武道の師範」の話が語られていました。猗窩座は自分を弟子として愛しんでくれた師・素山慶蔵との“約束”を守れなかったことを後悔し続けています。

■「大切な師の喪失」の物語

 このように「無限城編・第1章」の3つの戦闘は、「大切な師の喪失」というモティーフで繋がっていることが分かります。そして、「第1章」では、義勇と炭治郎の「兄弟子・弟弟子」の絆の深さが描かれています。彼らは兄弟弟子関係にあるのですが、これは「師弟」のモティーフの亜種といえるものです。

 獪岳・善逸と桑島、栗花落カナヲとしのぶ、猗窩座と素山慶蔵、の関係では、誰もが「師の死」の運命から逃れることができませんでした。しかし、義勇と炭治郎のエピソードだけが異なります。義勇と炭治郎は、「大切な師(兄弟子)」「大切な弟子(弟弟子)」を“失わないため”に戦います。

 この記事では、「無限城編の師弟愛」にまつわる、事例の一部を解説しました。『鬼滅の刃』では伏線は周到に張り巡らされており、「師弟」というキーワードだけでも、さらに多様な展開を見せます。「無限城編・第1章」の劇場公開期間はまだしばらく続くようなので、ほかの「鬼滅の伏線の謎」については、また別の機会にお話しできたらと思います。

《植朗子の新刊『鬼滅月想譚 ――「鬼滅の刃」無限城戦の宿命論』では、上弦の参・猗窩座をめぐる「師弟愛」について詳述している。水柱・冨岡義勇竈門炭治郎の関係と、猗窩座と師との関係についても比較しながら解説されているので、ぜひ参照してもらいたい。》

鬼滅月想譚 『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論
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