■吾峠呼世晴らしい物語構成と展開の妙

 『鬼滅の刃』は、各エピソードが単一のテーマのみで結びつくのではなく、共通するモティーフを通じ、「伏線」がいくつも張り巡らされています。これは作者・吾峠呼世晴氏が描き出すマンガ作品の特徴のひとつであるといえるでしょう。

 『鬼滅の刃』では、まず、①登場人物の「運命」を左右するような“重大なテーマ”が、個別に提示されます。そして、次に、②キャラクターたちの個々のエピソードに、共通性を持たせ、さらに、③その共通要素をくり返し用い、別のキャラクターのエピソードの中でも反復させながら、物語を展開していきます。

 たとえば、鬼殺隊の長・産屋敷耀哉と、鬼の始祖・鬼舞辻無惨の間には、「病弱」「死にいたる健康状態」といった共通要素が明らかに含まれています。竈門炭治郎と不死川実弥は、「鬼にされてしまった家族を持つ」という共通点があります。しかし、鬼になった実弥の母は家族を襲い、炭治郎の妹・禰󠄀豆子は捕食欲求に耐えました。

 このように、キャラクターたちは「共通する体験」をしながらも、それぞれの「運命の展開」は異なります。だからこそ、『鬼滅の刃』の悲劇性は際立つのだと思われます。吾峠呼世晴氏は、物語の構成、展開が極めて巧みな漫画家であるといえるでしょう。

■無限城編・第1章に通底する「師弟愛」

 では、「無限城編・第1章」の「3つの戦闘」における共通要素は何でしょう?それは、「師弟愛」だと思われます。

 「3つの戦闘」の中で、もっとも師弟関係が分かりやすく描かれていたのは、善逸と獪岳のエピソードでした。恵まれぬ環境と、ある“事件”をきっかけとして、鬼殺隊の隊士だった獪岳は、鬼になることを自ら選択します。

 そして、その選択によって、かつて心から大切に思っていた師・桑島慈悟郎を失うことになりました。獪岳は、善逸との兄弟弟子対決の中で、「師の愛」を疑う言葉を何度も何度も口にします。獪岳の行動には、複雑な「師弟愛」をめぐる執着心が見てとれます。

 では、蟲柱・胡蝶しのぶの場合はどうだったでしょうか。しのぶの戦闘動機は、もともとは姉のカナエを殺した鬼を滅殺することでした。しかし、それはあくまでも発端にすぎません。しのぶは大切な継子(=弟子)のために、想像を絶するような痛みに耐え、我が身を賭して戦い抜きます。しのぶは苦しみのさなかに、継子の栗花落カナヲの顔を何度も思い浮かべていました。

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