副題に「山伏の流儀」とあるように、『感じるままに生きなさい』の著者、星野文紘は現役の山伏だ。肩書は「羽黒山伏」となっている。

 17世紀からつづく出羽三山の宿坊「大聖坊」の13代目であり、いまも先達(修行の指導者)として山に入る星野。長年の実践を通して彼が主張する内容が、そのままこの本のタイトルとなった。

〈修験道は、大自然のなかに身を置いて、感じたことを考える学問。いってみれば、「感じたことを考える哲学」なんだよ〉

 まずは山中で感じること。だから、修験道に言葉はいらない。言葉を使って頭で理解するのではなく、山に入って感じたことを後から考える──この感じる能力こそが各人の魂の力となる。星野によれば、彼ら山伏が修行する目的もそこにあり、魂の力が強かった昔の人のレベルに自分をもっていくためにやっているらしい。

 星野の話を読み、私は50歳を過ぎて挑んだ立山(雄山)や男体山登山を思い出した。体力の衰えもあってそもそも言葉を発する元気もなかったが、疲労が増してくるにつけ、体のそこかしこが鋭敏になっていくのを実感。鳥のさえずりだけでなく、枝のこすれあう音、風の微音が鼓膜を刺激した。それは、まるで澄みきった水が自分の内側に満ちているような快い感覚だった。

 高名な山伏と自分の体験を並べてしまって恐縮だが、あの体験があるからこそ、星野のメッセージがすっと腑に落ちる。私たちにいま決定的に欠けているのは、自然から感じる魂の力、つまり野性の力なのかもしれない。
 懺悔懺悔六根清浄……。

週刊朝日 2017年2月17日号

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