20年前の8月、覚醒剤に溺れ、自宅マンションの5階から飛び降りた暴力団組員がいた。奇跡的に命が助かった彼は今、少年院や刑務所を出た若者の社会復帰を支える側に転じ、活動を続けている。「こんな俺でも変わることができたのだから、人は誰でも、やり直すことができるんですよ」。優しいまなざしでそう言い切る、男性の思いとは（全2回の1回目）。
【写真】講演を行い、フィリピンの刑務所を訪問…19歳「ワル」だった時代も
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十字架を見て涙があふれ
2005年の8月初旬。新宿・歌舞伎町の、とある教会で、イエス・キリスト像の十字架を眺めながら涙を流している自分がいた。
覚醒剤に溺れ、幻聴に苦しんでいた自分を、クリスチャンのヤクザ仲間が心配して教会に誘ってくれた。
「ただ、祈っていればいいんだよ」。言われるがままに十字架を見つめていると、なぜか涙があふれた。
その約一週間後の8月9日。突然、「この世に自分一人しかいないような恐怖と孤独」に襲われた。恐怖から逃れようと覚醒剤を打った数時間後、記憶がないまま、自宅マンションの5階から飛び降りた。
集中治療室で目覚めたのは3日後のこと。奇跡的に命は助かったが、右足を粉砕骨折するなどの大けがで、1年間入院した。
若者たちを支援
「人生って、本当に不思議だなって思いますよね」
20年前の「あの日」のおぼろげな記憶をたどりながら、そんな本音を口にするのは遊佐学さん（50）。“奇跡”で命がつながった、その当人である。
その後、紆余曲折を経てだが、クスリを断って堅気の仕事を始めた遊佐さん。少しずつ、かつての自分のような人たちを支える活動を始めた。
現在は、犯罪や非行に悩む若者を支援する一般社団法人「希望への道」代表で、国から更生支援のボランティアである「篤志面接委員」の委嘱も受けている。講演などで各地に出向いて自らの経験を伝え、フィリピンの刑務所に招かれたこともある。
「自立準備ホーム」を立ちあげ
昨年、生まれ故郷の栃木県栃木市に「自立準備ホーム」を立ち上げた。不動産業者が施設の趣旨を嫌がったのか、賃貸契約を何度も断られた末、貯金をはたいて購入した築40年を超す5LDKの民家が、遊佐さんの新たな活動拠点だ。
自らの経験から、少年院や刑務所を出た人たちの「やり直し」には、3つの欠かせない要素があると遊佐さんは話す。
