講演する遊佐学さん(本人提供)
講演する遊佐学さん(本人提供)

▽帰る場所があること

▽仕事をして収入を得て、生きがいを感じること

▽同じような経験をし、やり直しを願う仲間とつながること

「自立準備ホームなら、この3つがかなえられると思ったんです。入居者それぞれの『家』になってほしいという願いから、『俺ん家(おれんち)』と名付けました」

「自立準備ホーム」とは、保護観察所からの委託を受け、少年院や刑務所を出た後、行き先のない人を一時的に受け入れる民間施設のこと。寝る場所や食事を提供したり、仕事の紹介や社会復帰の相談に乗ったりする。

 その名の通り、再び犯罪に走らせず「自立して生きていく」道へとつなぐ役割だ。

委託料は入所者1人あたり1日5300円

 再犯をさせないということは、新たな被害者を生まないことにもつながる重要な役目だ。だが、保護観察所からの委託料は入所者1人あたり1日5300円。物価高の今、食費や光熱費などを考慮すると心もとない。

 事実、資金繰りに四苦八苦している自立準備ホームは少なくない。遊佐さんも例にもれず、貯金を切り崩しながらの日々だ。

「ギリギリでやっています。ご寄付をいただいたり、農家の方が野菜を差し入れしてくれることが心の底から、ありがたいんです」と本音を口にする。

 現在の入居者は少年が1人。紹介した解体業の仕事を続けている。

 寝坊させず、朝ちゃんと起きて仕事に行くように見守る。テーマは自由だが、毎日を日記で振り返る。遊佐さんが作った夕食をともにしつつ人生相談に乗ったり、休日はご飯を一緒に作ったりする。

 働いて収入を得つつ、落ち着いた日常を過ごせるようになることが、自立への助走だ。この先も、新たな元受刑者の入居が決まっている。

変わりたいを思うきっかけを

「人が人を変えることができるとは思っていません。でも、変わりたいと思うきっかけを作ったり、その歩みを支えることはできるはず。こんな俺でも変わることができたのだから、人は誰でも人生をやり直すことができると思っています」

 遊佐さんと話していると、何度も口をつく「こんな俺」のフレーズ。

 柔和な表情と穏やかな口調からは想像がつかないが、上半身には龍と不動明王の入れ墨が残る元ヤクザだ。

 10代前半でワルの道に入り、少年院に。覚醒剤に溺れてボロボロになり、30歳を超えて、2度の服役を経験した。長く、人生を変えられなかった。

 夢も目標もなかった「こんな俺」が送った半生と、そんな遊佐さんが「人は誰でもやり直すことができる」と信じて少年や元受刑者らを支える理由とは何なのか(後編に続く)。

(ライター國府田英之)

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