あんぱんの場面から(C)NHK
あんぱんの場面から(C)NHK

再会からの怒涛の展開

 そして95話では、嵩と手嶌が対面する。圧倒的才能を前にする恐怖はもうなくなっていた。のぶやたくやとのやりとりから、嵩は臆することなく、手嶌を「好青年」として受け入れる。嵩は漫画家一本で生きていくとようやく心に決めた。

 一方で、上京したのぶの妹・メイコ(原菜乃華)と嵩の親友でNHKで働く健太郎(高橋文哉)の恋愛模様は急展開を見せた。メイコが憧れだったNHKの「素人のど自慢」の予選会に挑戦して、不合格~結婚までが、放送にしてわずか3日で描かれたのだ。SNSでは「史上最速展開」「ラスト5分が怒涛すぎる」などと盛り上がった。

 短い中でも印象的だったのは、メイコが働くことになった喫茶店でのできごと。健太郎が突然現れた瞬間のメイコは、「ライスカラシマ」と注文を言い間違える。これはライスカレーと言おうとした瞬間に「辛島健太郎」がフラッシュバックしたためだろう。「好きな人のことで頭がいっぱい」を示す細やかな演出が、メイコの等身大の恋心を際立たせた。

 健太郎もまた、メイコを喜ばせたくてNHKに入社していたことが判明する。2人の関係は、相手を幸せにしたいという純粋な思いから始まっていた。

 漫画を描きたい嵩と、歌を歌いたいメイコ、2人の表現者に共通していたのは、顔の見えない不特定多数の評価ではなく、心から信じるたった1人の言葉が原動力になるという点だ。その言葉さえあれば、人は前に進める。

 恐れながらも一歩を踏み出す勇気、支え合う愛の力、そして誰かを幸せにしたいという純粋な思い──それらが詰まった第19週「勇気の花」は、夢を追うすべての人への応援歌だった。

(澤由美彦)

こちらの記事もおすすめ 【NHK朝ドラ「あんぱん」第18週】嵩・北村匠海が、のぶ・今田美桜にようやくプロポーズ 「僕が幸せにします」発言も、波乱の予感!
[AERA最新号はこちら]