自宅の引き出し奥にしまってあった筆者のパスポート。一度は更新したがそれっきり2016年で有効期限が切れていた=渡辺豪撮影
自宅の引き出し奥にしまってあった筆者のパスポート。一度は更新したがそれっきり2016年で有効期限が切れていた=渡辺豪撮影
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 訪日外国人(インバウンド)が増える一方、日本人の海外旅行者(アウトバウンド)が伸び悩んでいる。その弊害はさまざまな分野に波及しそうだ。

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「日本人の海外渡航者は2019年比で7割にも満たず、パスポートの保有率も約17%と主要諸外国に比べて極めて低い現状にあります」

 こう嘆くのは、約1170社の旅行会社を会員にもつ一般社団法人「日本旅行業協会」(東京都千代田区)の髙橋広行会長(JTB会長)だ。

 同協会が外務省などの資料をもとに集計したデータによると、2024年末時点で有効なパスポートの累計は約2077万冊(公用旅券を除く)で保有率は17.3%。24年の保有率は50~80%といわれる主要諸外国と比べても大きく下回っている。ちなみに、日本人の保有率が過去最高だったのは05年で27.7%。もともと海外主要国の中では少なかったが、近年はそれが一層際立つ状況が続いている。

 なぜこうなったのか。背景要因について髙橋会長は「コロナ禍」「円安」「物価高」の三つを挙げる。

「円安、物価高による旅行代金の高騰、また、コロナ禍で海外旅行ができず冷え込んだ海外旅行へのマインドが戻ってきていないということが挙げられます。加えて、コロナ禍で旅行会社の店舗が激減してしまい、相談できる窓口が減少してしまったことも要因の一つと考えられます」

 訪日外国人(インバウンド)が増える一方、日本人の海外旅行者(アウトバウンド)の低迷が続くアンバランスの弊害も小さくないという。

「国際交流は双方向交流が基本であり、国が目標としている訪日旅行者数6000万人を目指すためには、受け入れ体制の整備を進めるだけではなく、出国側・入国側双方に安定した需要が必要です」(髙橋会長)

 日本人の海外旅行が活性化しないと航空便を増やすこともできないからだ。

 では、パスポートを保有しない個別の要因はどうなのだろう。AERAのアンケートで意見を募集したところ、日本人のパスポート保有率の低さについて「知らなかった」という声もちらほら目についた。

 神奈川県の会社員女性(41)は「知らなかったのでびっくりしました」と反応し、こんな感慨を漏らした。

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