
表面的なしあわせ家族の裏に潜む、鈴木家の違和感
一方、ネルラの実家・鈴木家では、家族で舞鶴へ行くという話題が持ち上がる。
第2話でオムライス、第3話ではバターロールが登場した。やけに「食べ物」を印象に残そうとする本作の脚本。そうなると、佃煮が嫌いな弟のレオ(板垣李光人)のことも気になってきて……一見どうでもいい些細な、しかし奇妙な違和感が積み重なっていくのを止められない。
前回指摘した、位牌が二つある問題。第3話で明かされたのは、二つ並んでいた位牌の片方の正体だ。6歳で海難事故に遭い亡くなった五守(ゴーシュ)という弟の位牌だった。ただ、五守については、どこかうっすらと隠し事をしているような空気が、鈴木家には漂っている。家族全員が協力し、口裏を合わせながら「何か」を隠しているようにすら見えるのだ。
3話冒頭、ネルラが父の寛(段田安則)に「法律家としての筋を曲げても、私を守ってくれるって言ってた」と伝える言葉に滲むのは、ネルラの幸太郎に対する信頼の表れなのか、それとも“演じられたしあわせ”なのか。視聴者には、その笑顔が少しだけ痛々しく映った。
幸太郎が出て行った夜、恋愛ドラマにありがちなドラマチックな追いかけシーンは存在しない。ネルラは彼を追わないのだ。鈴木家全体を覆うように、ネルラ自身にもどこか虚構の匂いがある。本心はいまだ隠され、明かされないままになっているような。大事な部分には手を触れないままで、「ネルラ」というイメージだけが立ち上げられているような。
そんな戸惑いに翻弄されながらも、ある種の異物感が、彼女をよりミステリアスに、そして不安定に見せていることに、視聴者は気づく。
日常のなかに浮かぶ、小さな違和感。それが、このドラマの不穏さを静かに増幅させている。