
中国が深刻な水問題に直面している。評論家の白川司さんは「北海道では、過去10年にわたり水源近くの土地が中国資本によって相次いで取得されている。リスク管理の観点から無視してはいけない動きだ」という――。
新たな世界最大級ダムを建設する理由
中国が7月にチベット自治州で世界最大級の巨大ダム建設に着手したことが、衛星画像の分析で判明したと英BBCなどが報じた。これは、中国南部・湖北省に位置する三峡ダムの建設以来、最大規模の国家的水利事業である。
全長約6300キロの長江の中流域に建設された三峡ダムは、これまでリスクの高さが指摘されてきたが、中国政府はさらに巨大なダムを建設しようとしていることに、世界中から疑問の声が上がった。
その背景には、中国が直面する深刻な水資源リスクがある。
中国の水危機については2022年9月にダイヤモンド・オンラインに寄稿した〈「中国の水問題」が危機的状況、世界的な食糧不足や移民増加の可能性も〉でも論じているが、状況は当時より悪化している。
ここでは、その背景について考えていく。
豊かなはずの南部でも水不足のサイン
近年、中国の水問題は危機的な様相を呈している。2025年初頭の国連報告によれば、中国の淡水可採量は世界平均の4分の1以下であり、特に北部では平均の10分の1程度しかない。
さらに深刻なのは、中国では例外的に水が豊かだとされてきた長江流域までもが、干ばつに見舞われていることである。
中国の水事情は、基本的に比較的水に恵まれている南部から北部に水を回すことで成り立っている。その象徴が三峡ダムである。
世界最大規模を誇る三峡ダムは、建設以来たびたび土砂の堆積や水質悪化を引き起こしており、2020年の長江洪水では「洪水制御能力に限界がある」との批判が中国国内でも噴出した。
また、三峡ダムは地震多発地帯に建設されており、活断層の上に作られた巨大ダムである。万が一、大規模地震が起きて崩壊すれば、大都市が密集する長江下流地域に甚大な被害がもたらされ、数億人に影響が及ぶと見積もられている。
このような危険を承知のうえで三峡ダム建設が強行されたのは、慢性的な水不足に悩む北部地域への水供給が不可避だったためである。特に中国一の穀倉地帯である華北平原に水を切らさないことは、産業開発においても食糧供給においても中国の生命線と言えるほど重要である。
ところが、2025年春には長江中下流域の湖北省・湖南省・江西省で異例の水位低下が観測された。水が豊かとされる南部で水不足の兆候が表れ始めている。