
早稲田大学総長、田中愛治。「私学の雄」早稲田大学の総長は、学校法人の理事長と学長を兼ねた名実ともにトップ。分刻みのスケジュールで動き、キャンパスを歩けば、学生から歓声が上がる。愛称は「ラブジ」。任期は残すところ1年余り。「世界で輝くWASEDA」を目指し、ビジョンは総仕上げに向かっている。
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真新しい高層の校舎が増えた早稲田大学のキャンパス。西門商店街の一角には、昔ながらの学生街が残る。学生たちの食欲を満たしてきた老舗「三品(さんぴん)食堂」は、1965(昭和40)年の創業から丸60年。店内の壁は学生の寄せ書きで埋まる。
年季の入った木製カウンターに早稲田大学総長、田中愛治(たなかあいじ・73)の姿があった。「久しぶりですね」と店主。「いつもありがとうございます」と田中が笑顔で返す。なじみの味に親しむ常連客らしい。
田中は学生時代、空手部の所属だった。当時から道場が三品食堂のすぐ近くにあったという。
「ラーメンは当時、おやつという感覚ですから、とにかく丼でごはんが食べたい。下級生の頃は、上級生と鉢合わせになると緊張するので、恐る恐る週3回。時間をずらしてでも食べに通いました。4年生になると週4~5回に増えました」

バラ肉にタマネギ、絹豆腐をしっかり煮込んだ濃厚な味。母親から店を継いだ店主の北上昌夫(早稲田大学周辺商店連合会会長)によると、田中がよく頼むのは「カツミックス」(並1千円)。カツと牛めし、カレーの3種類(三品)が味わえる。
「ひとりで訪れて、カウンターで静かに食べて帰る。気づかない学生もいます」と北上。2018年6月14日。田中は最初の総長選の第1回投票日も訪れ、験(げん)を担いで「カツ牛」を食べたという。
「きゃ~、初めて会った~!」
店を出ると、商学部1年生だという学生数人に囲まれた。多くの学生に愛され、周囲には常に人の輪ができる。
中高は陸上、大学では空手 愛称は「ラブジ」
13学部と20を数える大学院の各研究科などで日夜、計4万7千人もの学生が学ぶ「私学の雄」。早稲田大学の「総長」は、学校法人の理事長と学長を兼ねた名実ともにトップだ。
教授や講師、助手などの常勤教員だけで2千人超。大学職員も1200人超。田中を支えるひとり、総長室長の松尾亜弓によると「スケジュールは隙間なく分刻みでぎっしり入っています。10分の隙間があれば新たな打ち合わせが入ります」。