およそ3カ月に及ぶ取材は昨年5月、「M&A仲介の罠」と題した連載に仕立て、朝日新聞デジタルで配信した。すると、想定外に大きい反響があった。「同じような買い手がほかにもいる」との情報が次々と寄せられた。そうしてトラブル事例を掘り起こして回るうち、仲介業界が抱える矛盾と非常識な振る舞いが浮かび上がってくる――。
すこし前までは、M&A仲介を美化した広告が世間にはあふれていた。M&Aを増やせば生産性の向上につながるとして、政府も補助金や税制で後押ししてきた。ニュースメディアが中小M&Aの負の側面に目を向ける機会は少なく、それらも自分の会社をM&A仲介へ無防備にゆだねることに一役買っていたに違いない。
相次ぐM&Aトラブルを報じた一連のキャンペーンで、局面は変わった。政府は実質的な業界ルールである中小M&Aガイドラインを改訂し、業界団体の自主規制も強化された。資格も免許もいらない無法地帯で急成長を遂げてきたM&A仲介ビジネスは、踊り場に差し掛かっている。
会社の継続や成長にとって、M&Aが一つの有効な手段であることに揺るぎはないが、中小企業経営者にとって、仲介ビジネスを安心して利用できる環境は整っていない。
中小企業に明日はあるのか。具体的な事例の数々と業界の対応を検証した拙著を通して、その行方を読者のみなさんに占っていただきたい。
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