
「安いシャンプーはよくないんですよ」「市販のカラー剤、使っちゃったんですか」――。リラックスしにきた美容室で、美容師の突然の一言に傷ついた経験はないだろうか。背景には、美容師のカウンセリングの質を指摘する声もある。
* * *
大阪市に住む30代の女性は、ふと髪を切りたくなった。いつもの美容室はあいにく満席。仕方なく、初めてのサロンをネット予約した。
担当は20代とおぼしき若い男性美容師。手際よく案内され、鏡の前に座ると、「今日はどうしたいですか?」
と聞かれた。女性は少し悩んだが、こう返した。
「逆に、どんな髪形が似合うと思いますか?」
プロに委ねてみたかった。自分では選ばない「新しい自分」に出会いたかった。
ところが――。
「いや、そういうの、困るんですよね」
美容師はあからさまに、ため息をついた。
「え……もしかして、怒られてる?」と不安な気持ちになりながら、「じゃあ」といつもの美容室と同じように頼んだ。
帰り道、自問した。
「こっちはお金を払ってるのに、なんで休みの日に、初対面の人から説教されなきゃいけないの? もう絶対に行かない」
筆者自身も「市販のカラー剤を使ったんですか? ムラになりますし、あれ、よくないんですよ」と指摘された経験がある。私の頭皮や髪を思って、言ってくれているのだろう。それでも、責められているような気がして居心地が悪かった。
なぜ美容室でトラブルが起こるのか。
横浜や東京で美容サロン「mu;d(ムード)」など4店舗を展開する夢人グループ代表の富永厚司さん(55)は、「問題は技術以前の、カウンセリングの質」だと語る。
「エクステを大切にしているお客様には、まず『長い髪は憧れますね』『すごく手入れされていますね』と声をかけます。お客様の努力を認めたうえで、『もっとこうしたい』という本音を引き出すのが美容師の仕事です」
美容室の倒産は2024年度、過去最多に達した(帝国データバンク調べ)。人手不足やコスト高が要因とされるが、それだけか。人口減少が進むなか、お客さんの心に寄り添えない美容室は、真っ先に選ばれなくなるだろう。お客さんと関係性を築くためのコミュニケーション能力が重要になってくる。
初対面の相手にいきなり「くせ毛ですね」と口にするのも無神経。コンプレックスに触れる恐れがあるからだ。その代わり、「雨の日に膨らみますか?」「朝のセットを楽にしたいですか?」と質問を重ねて、“裏の気持ち”を引き出していく。
