「あくまで2023年時点で、金融政策の正常化が進んだ場合のシミュレーションとして作成されたレポート」(井上氏)と話すが、“その世界”が現実になれば、変動金利は直近の最優遇金利から6倍以上に跳ね上がることになる。

 果たして、現実的な政策金利の到達点はどこか?

「日銀は、金融緩和でも金融引き締めでもない“中立金利”を1~2.5%程度と見ています。しかし、政策金利が0.5%を超える水準は過去30年にわたってありません。長く経験したことがない金利に対して日銀は慎重な姿勢を取っており、景気の腰折れだけは絶対に避けたいと考えているのは間違いありません。そう考えると、到達点は中立金利の下限に近い水準になる可能性が高いと見ています。26年、27年も大幅な賃上げが進み、景気が失速するリスクがないと判断した場合に限り、1.25~1.5%まで引き上げる余地が出てくるでしょう」(同)

 変動金利は今より1%近く上昇する――そんな現実的な予想をもとに、今回、モゲチェックの塩澤氏にシミュレーションしてもらった。

 元本3500万円で当初のローン金利を0.6%とし、1.6%に上昇した場合について検証してみると、毎月9万2410円だった返済額は、10万7243円に増加。年間の支払い負担の増加額は18万円弱にもなる。当然のことながら、ローンを組んだ時期や元本によっては、さらに大きな返済負担になる。

出所:モゲチェック
出所:モゲチェック

「メガバンクやネット銀行で変動金利の住宅ローンを2018年以前に組んだ人はもともとの設定金利が0.6%前後にあるため、すでに金利負担が1%を超えてきています。地方銀行が提供する住宅ローンになるともう少し金利が高いので、24年以前に借りた人の大半が1%超え。18年以前に地銀で住宅ローンを組んだ人は1.2%を超えているのです。仮に、ここから政策金利が1%引き上げられたら、変動金利は2%を超えてくるでしょう」(塩澤氏)

 元本3500万円のローンに対する適用金利が1.2%から2.2%に上昇しとしたら、月の返済負担は約1万8000円、年間にして20万円以上の負担増となる。そのインパクトは相当に大きいはずだ。

 ただし、悲観的になる必要はない。金利が上がり続けることはないからだ。ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏が話す。

「バブル時代には政策金利は6%を超えましたが、過去50年の推移を見ると、ピークをつけたら1年から1年半ほどで下がる傾向にあることがわかります。利上げが進んでも3年ほどで頭打ちになる。この先、必ず利下げに転じる局面も出てくるわけです。逆に言えば、利上げが進む局面では景気の好循環が見られ、着実に賃上げが進む。住宅ローンの返済負担が増えても、それ以上の収入増が見込める状況にあるはずです」

 当面は1%の金利上昇を想定しながら、コツコツ返済を続けていくほかなさそうだ。

(ジャーナリスト・田茂井治)

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