東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 参院選が終わった。自公が大敗し、衆参両院で与党が過半数を割る異例の事態となった。石破首相は続投の意向だが、長続きしないだろう。

 かといって野党が勝利したわけでもない。野党第1党の立民はぎりぎり改選前議席を維持したが、昨年の衆院選か得票数を大幅に減らした。その点では敗北と言える。今回は「政権選択選挙」との表現もあったが、選択対象となる野党政権の姿は最後まで見えなかった。

 ではどこが勝利したかといえ新興勢力である。最も注目すべきは参政党の躍進だが、国民も大幅に議席を増やした。保守党やチームみらいも議席を獲得した。今回は共産も議席を半減させており、左右に関係なく旧政党が敗北し新政党が勝利する構図が明白となった。自民と立民は高齢者に支持が集中しており、先細りも予想される。

 今後の政局は全く見通せないが、急伸した参政党が焦点になることは間違いない。参政党は極右の排外主義政党として警戒され、選挙前のメディアやSNSは非難一色となった。支持者をカルト信者呼ばわりする意見もあった。けれども選挙で票を集めた以上、今後は対話していくほかない。それが民主主義のルールである。

 筆者は参院選当日の夜、経営するカフェに15人ほどの若い世代を集めて即席の討論会を開いた。支持政党は自民から共産まで多岐に亘り、参政の支持者も2人いた。ネットでは悪魔化される参政支持者だが、話してみれば切実な生活実感がある。議論の模様はネットで今でも視聴可能なので、興味ある読者は検索してほしい。

 政治の本質は友と敵を分けることにあると喝破したのはドイツの法学者カール・シュミットだが、SNSはそんな本質を増幅する装置だ。そこではみなが友敵に分かれ罵詈雑言を浴びせあっている。

 けれども現実には、社会は異なる政治信条をもつ多様な人々が力を合わせてはじめて成立するものである。対立に全てがのみ込まれては社会が滅びる。政治信条を異にする人々が安心し話し合える場所をいかに提供するか。それが今後のメディアや言論の使命ではないか。

AERA 2025年8月4日号

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