
それにしても、参政党のさや氏が東京選挙区で約66万票超を取り第2位で当選するなどということは、数カ月前には全く予想もできないことだった。選挙期間中は本名すら明かされず、経歴すらよくわからなかったさや氏の支持者への熱狂ぶりには言葉を失う。なにより驚いたのは選挙最終日に大観衆を前に感極まった調子で「私を皆さんのお母さんにしてください! 日本人のために働くお母さんにしてください!」と絶叫していたことだ。「お母さん」をアピールする43歳の女性政治家が登場する現実を、私は受けとめられないでいる。
そもそも、「国民のお母さん」をアピールする女性政治家が、これまでいただろうか。最近、小池百合子都知事は子育て政策を評価する母親たちから「都民の義母」とは呼ばれているが(口は出さず、お金を出す理想的な義母として)、あくまでも「義母」である。もっと言えば都知事本人は、「ギボではなく、グランマがいいです(ウフ♡)」な感じでYouTubeで話しているような軽さがある。
政治学者の岩本美砂子・三重大学名誉教授に確認したのだが、やはり、「国民の母」を謳った女性政治家はいないのではないかとのこと。その理由のひとつとして、国民の母=“国母(こくも)”とは、昭和天皇の妻であった皇后を指していたことから、そういう歴史知識のある女性議員はまず自分を「国民の母」とは呼ばなかったからだ。
さや氏は恐らくそういう歴史を知らずに自分を「皆さんのお母さんにしてください」と言ったのだと思われる。天皇を中心に据える憲法改正を目指す党として知らなかったのだとしたらすごいが、恐らくさや氏の “お母さん”とは、国民の母ではなく、参政党支持者にとってのお母さん、という意味なのだろう。他の島など存在しない内輪のコミュニティーにおける“お母さん”。子を慈しみ、守り、無私の愛で身を挺して戦うファンタジーとしての正しい“お母さん”。それは“母になることは絶対ない”男によるファンタジーでしかないのだが、さや氏には、“お母さん”を求める男の有権者の姿しか見えていないのかもしれない。