これまで無数の男性政治家が「私を男にしてください!」とアピールしてきた。この場合の「男になる」とは、尊敬されるべき役割を担うという意味である。一方、女性の場合、「私を女にしてください!」とは言えない。そこに言葉のジェンダーが歴然とある。だからこそ、さや氏が恐らく無意識に直感的に選んだ“お母さん”という言葉は、とても参政党っぽく、参政党的な正解の言葉なのだろう。つまり、“お母さん”になることでようやく女は一人前の人間として認められる、というような意味で。
参政党の神谷宗幣代表は選挙後のインタビューで、「(批判者に)叩いてもらってよかった」と言っていた。反対の島の人間たちに叩かれたことで、結果的に支持を伸ばしたというのである。それは恐らく正しい認識だろう。「参政党は危険だ」という強い批判の声は、信じている者にはまっすぐ届かず、むしろ内輪の結束を強めたのだ。そのくらい、“彼ら ”は内向きなのだ。
今日の私のスマホには、参政党の躍進のために議席を失った自民党の重鎮たちの動画が流れてくる。悔しさをにじませ、茫然自失な表情で “さようなら”を伝えるおじいさんたちの顔。自民党のおじいさんたちがいなくなればいいのに! とは私も何度も思ったことだが、“さようなら”を告げるおじいさんたちを見ていても、まったく胸が躍らない。なぜだろう。
東京選挙区で負けた自民党の重鎮、武見敬三氏が囲み取材中、今回の選挙を「現状を否定し破壊した結果」と評していた。ああ、そうか、と、その言葉がすとんと腹に落ちた。今回の選挙は、自民党政治を否定する声が勝ったのだ。でも、私は、「破壊したい」とまでは思っていなかった。でも現実に起きたのは、これまで築き上げられてきたこの社会の空気の破壊、でもあったのかもしれない。女性候補者への激しい罵倒、女性支援者への暴力、女性蔑視、外国人差別など、選挙運動を通して見てきたものは、武見氏のような重鎮から見れば「品性ある民主主義への破壊行為」に映ったのだろうし、実際、そういう側面があったのだろう。現状は否定され、新しい未来が築かれる……というよりも、現状が否定され、何か大切なものが破壊された……というような。
これからどういう時代になっていくのか。偏った私のスマホを一番信頼できないと思いながら、対話をするしかないのだろう。違う島の人とも。民主主義を破壊せず、育てていくために。
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