
仙台に誕生した新たなリンクで開催されたアイスショー。そこで仙台が生んだトップスケーターが見せたのは、感謝とこれからに思いを馳せた格別の演技だった。AERA 2025年7月28日号より。
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この日も、圧倒的な存在感とともに、祝祭空間を創り上げた。
7月5日、仙台市内の「ゼビオアリーナ仙台」でアイスショー「The First Skate」が開催された。
ゼビオアリーナ仙台はプロバスケットボールチームの本拠地などで利用されてきた施設だ。そこに改修工事を行い、1年を通してスケートをするのが可能な通年型アイスリンクを設置。氷の上に断熱材などを敷くことでこれまでのようにバスケットボールやコンサートの会場として併用できる多目的アリーナとして生まれ変わった。その開館を記念してのイベントだ。
10倍を超える高倍率の中、無事チケットを購入できた人々で観客席が埋め尽くされる。始まったショーはオープニングから華やかな空気に包まれた。地元のスケートリンク「アイスリンク仙台」で練習するスケーターたち24名による群舞のあと、イタリア歌劇「トゥーランドット」のアリア「Nessun Dorma」(誰も寝てはならぬ)が流れる。2006年トリノ五輪で荒川静香が演じ、金メダルを獲得したことで広く知られるようになった曲だ。

トリは「春よ、来い」
その調べに乗って、仙台にゆかりのあるスケーターたちが1人ずつリンクに登場する。本郷理華、鈴木明子、本田武史……。4人目のスケーターが姿を現すや否や、場内に大歓声が沸き起こった。羽生結弦だ。美しくも迫力ある旋律のもと、羽生が優雅にイナバウアーを披露すると、再び大歓声が響き渡った。
オープニングが終わると、地元のスケーター2名、そしてトップスケーター4名によるソロナンバーが続く。
トリを飾ったのは、羽生だった。この日のために選んだのは「春よ、来い」。競技選手時代からエキシビションで滑ってきたおなじみのプログラムだ。終演後、選んだ理由を羽生が明かしている。
「始まりということが一つのテーマでもあるので、自分にとっては始まりの季節、春というようなイメージで選ばせていただきました。何か少しでも、今日滑った子たち、そして今日見に来てくださった方々の中で、なんか季節だけじゃなくて、このプログラムを見たことがきっかけで何かが始まったり、何か一歩進めることができたらいいなという思いを込めて、祈りを込めて滑りました」
情感のこもった演技を見終えた場内の人々はただただ、余韻に浸っているようだった。
