
6月28日、和歌山県アドベンチャーワールドのパンダ4頭が、ファンに惜しまれながら、中国へ旅立って行った。上野動物園で生まれたシャンシャンをはじめ、日本生まれのパンダたちも中国に返還されるのはなぜか。背景には「絶滅リスク」がある。
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なぜシャンシャンは返還しなくてはならないのだろうか。
その理由は、「繁殖活動」に求めることができる。1980年代にジャイアントパンダ(以下、パンダ)はワシントン条約により国際商取引が禁止された。そのため、1990年代半ば以降に外国へ渡ったパンダは、いずれも繁殖の研究のために中国から貸し出されたものである。中国では、飼育されているパンダについて育成プログラムに沿った個体管理が行われている。シャンシャンもその対象であり、返還すべきことは初めから契約により定められていた。中国に返還された後も繁殖を目指すことになるという。
現在、動物園などで飼育されているパンダは670頭を超えており、その個体数は10年間で2倍近くになったとされる。しかし、パンダは依然として希少な種であることに加え、その生態は未解明なことも多い。そのため、遺伝子の多様性を保つために、より数の多い中国でより良い繁殖相手を探す必要がある。
パンダの繁殖にふさわしい年齢は、オスが約6歳~7歳から、メスが約3歳~4歳からとされている。つまり、2022年6月に5歳になったシャンシャンは繁殖適齢期であるのだ。上野動物園の前園長で日本パンダ保護協会会長の土居利光氏によれば、中国のパンダは山脈ごとに大きく六つの地域の遺伝的な系統に分かれると考えられており、通常はその地域の個体群で交配を行うが、血が濃くならないように配慮するという。シャンシャンの両親は遺伝的に望ましいカップリングとされていて、中国からの期待も大きいそうだ。
シャンシャンが健康な子を産めば、中国が行っている飼育下パンダの育成プログラムを促進することができる。これは、パンダの個体数の増加や野生復帰事業の成功に繫がる。この事業は野生個体群の遺伝的多様性の改善と個体数の増加を目的とし、パンダの絶滅リスクの減少に繫げようとする、中国で行われている取り組みである。