(c)2023 FANTASIA
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 環型社会が確立していた江戸時代を背景に、最下層で生きる若者たちの姿を描く青春時代劇。武家育ちながら貧乏長屋で父と暮らすおきく(黒木華)はある日、厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次(寛一郎)と下肥買いの矢亮(池松壮亮)と出会い、次第に心を通わせていく。連載「シネマ×SDGs」の49回目は、映画「せかいのおきく」の阪本順治監督に見どころを聞いた。

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 この映画は地球環境を守るために考えた課題を映画にするというプロジェクトの第1弾。発案者の美術監督・原田満生とは30年くらいの付き合いになりますが、3年前に彼が不意にSDGs、中でもサーキュラーバイオエコノミーの映画を作りたいと言ってきたんです。でも、僕は啓蒙的なことは苦手。ゴミの分別くらいはするけど、急に大きなテーマを持って劇映画を撮るのは難しいと。ただ、彼が持ってきた企画書の中にエピソードとして、日本は西洋に先駆けて、江戸時代に循環型経済を成立させていたという記述がありました。

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 ポルトガルの宣教師が書き留めたもので、それを読むと欧米ではその時代、糞尿は川に流しそれが原因でコレラが起きたり、家の2階から道路に投げ捨てたりしていたのに、日本では糞尿を買ってもらえる。それが田畑にまかれ食物ができ口に入り、また糞尿を畑にまき……と循環型の社会ができていてびっくりと。それで「うんこだったらやる」と言ったんです。誰もそれをテーマに映画を撮ったことはないだろうし、汚いところから社会を眺める映画なら興味がある。そこから始まりました。

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 SDGsとは誰一人取り残さず、貧困から救うということが第一義。17の目標のうち五つは人にまつわる、貧困やジェンダー、平等といったことを謳っています。実際、今一番危機的な問題は人。調べながら、暮らしや格差が最重要だと思いました。この経済国の現代日本でも若者たちの貧困や格差といった問題は深刻です。だから、ここでは江戸の糞尿と食のサイクルというものを見せつつ、若者たちを主人公にして貧困や格差、ある種の平等を念頭に起き、格差を埋めるような淡い恋を成就させた。それもSDGsを意識したからこそ生まれたんですよ。

阪本順治(監督)さかもと・じゅんじ/1958年10月、大阪府生まれ。「どついたるねん」(89年)で監督デビュー。主な作品に「顔」「KT」「亡国のイージス」「冬薔薇」など。4月28日から全国公開 (c)2023 FANTASIA
阪本順治(監督)さかもと・じゅんじ/1958年10月、大阪府生まれ。「どついたるねん」(89年)で監督デビュー。主な作品に「顔」「KT」「亡国のイージス」「冬薔薇」など。4月28日から全国公開 (c)2023 FANTASIA

(取材/文・坂口さゆり)

AERA 2023年4月24日号