
上場企業のガバナンスに詳しい上田亮子・京都大学客員教授は、企業統治指針は当初、経営者に嫌がられたが、現在は各企業に受け入れられていることを強調。「従業員や取引先の保護にもつながっている。自由な経営を守ることにもなり、(テレビ局向けにも)コード的なものがあってもいい」と述べた。
コード策定に反対する意見はなかったが、多くのメンバーが口にしたのは「だれがつくるか」という問題だ。テレビ番組の制作や編成には、憲法上の表現や報道の自由が適用されるため、検討会のメンバーからは「総務省がつくることには違和感がある」との意見もあった。
放送法などではテレビ局の自主・自律の姿勢が尊重されているため、策定する団体として具体的に民放連を推す声もあった。総務省は、コードを策定する団体として、政府や民放連のほか、テレビ局各社が独自につくる方法もあるとしている。総務省はテレビ局が報道機関でもあるため、言論の自由に配慮しながら、コードの必要性も含めて議論を重ねる考えだ。
このところ様々な団体でガバナンス・コードをつくる動きが盛んだ。文部科学省の提言を受ける形で日本私立大学連盟は19年にガバナンス・コードを策定。「社会・地域と連携、その発表に貢献する」「健全な大学運営について説明責任を果たす」などの指針について、各大学がその状況を自主的に公表している。また、スポーツ庁が19年に策定したスポーツ団体のガバナンス・コード(中央競技団体向け)もある。
金融庁もコーポレートガバナンス・コードのほか、15年に発覚した東芝の不正会計を受け、17年に監査法人のガバナンス・コードも公表した。
テレビ局向けのコードの大まかな内容や方針は今後、検討会で議論されるが、FMHの問題の反省から、①人権を守る取り組みやコンプライアンス(法令順守)を重視する姿勢②地域や従業員といったステークホルダーを視野に入れた経営③ローカル局を中心に将来、経営難も予想されるため、財務やサステナビリティー(持続可能性)に関する情報の開示――、などが盛り込まれそうだ。
6月27日の初会合で村上誠一郎総務相はフジテレビの問題について「自主・自律を基本とする放送法の枠組みを揺るがすもので極めて遺憾。フジテレビでは信頼回復に向けた取り組みが進められているが、ガバナンスの確保を業界全体で取り組むことが課題ととらえて検討会を開催することにした」と意欲を見せた。
ただ、テレビ業界は、東京に本社を置くキー局5社の親会社は上場しているが、ローカル局のほとんどは非上場で、規模も小さい。また、テレビ局にはすでに放送倫理基本綱領などもあり、すみわけも必要だ。総務省は今年11月をめどに検討会としての意見を取りまとめ、パブリックコメントにかける方針だ。
仮にテレビ局向けの指針を策定するにしても、実効性が伴う内容にできるかが重要だ。また、ローカル局を含めた業界全体が、その指針を遵守するよう、積極的に取り組めるかも信頼回復のカギとなりそうだ。
(経済ジャーナリスト 加藤裕則)
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