リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)
リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)

 家族の了解は取れました。しかしなんと、一緒に行こうと誘ってくれた友人が両親に反対されて、「やっぱり行かない」ということになってしまいました。

 あれだけ誘ってくれたのに、ポスター貼りをするのも、世界一周に行くのも、俺ひとりになってしまったのです。

 こうなるとめちゃくちゃ緊張しますよね。集団生活になんかまったく慣れていないし、うまくいくかもわからない。不安だけど、飛び込んでみるしかない。

 結局、どれだけ心配だったとしても行動するしかないんだと思いました。

 一緒に活動していたメンバーはけっこう多様でした。

 おじいちゃんくらいの年の人もいれば、まだ残っていたヤンキー風の見た目のお兄さんもいて(実際に話すと優しい人でした)、俺が一番若かった。ヤンキーお兄さんの他にも10代後半の仲間もいて、俺にとっては小さな学校のような場でした。

 そんなメンバーでいざポスター貼りを始めると、もっとも頼りなさそうな俺が最初から一番の成績を残しました。

 自分は一際小さいし子どもっぽい見た目だったんですが、それがプラスに働きました。妙に張り切った感じもないし、威圧感もないから、純粋に一生懸命取り組んでいるように見えたんでしょうね。

「なんでこんなに貼れたの?」

 実際にお店を回ってスタッフの人にお願いすると、すんなりポスターを貼らせてくれるんですよ。レストランとか雑貨店で趣旨を説明して「ポスター貼らせてもらっていいですか?」と切り出すと、熱心な学生みたいに思われたのか、「いいですよ」とOKしてくれるんです。だから次々とポスターがはけていく。

 結果を残して帰ると、メンバーのみんなは驚きます。

「なんでこんなに貼れたの?」

「ねえ、どんなふうに回っているかやり方教えてよ」

 認められる嬉しさもあるし、ちょっとした優越感もありますよね。「あれ、俺って実はかなりできるんじゃないか」と自信もついてきます。

 ポスター貼りの拠点の事務所は、近所の船橋市にありました。けっこういろんな人が集まる事務所なので、近くのお店はすでに誰かが回っています。だから、船橋以外の場所に遠征することもありました。

 ある日、茨城県の取手市までみんなで行ったときのことです。

 一回も行ったことがない取手でも、俺が飛び込み営業をすると一発OKが連発。もちろん空振りだった店もあったけれど、それ以上に当たりが多くて、さらに一目置かれるようになりました。

 最初は人と話すのも苦手だったけど、思い切って働いてみたら全然問題なかった。

 自分にもできる、という自信がついて、家族以外の人とも話せるようになっていったんです。

(リュウジ・著『孤独の台所』から一部を抜粋)

孤独の台所
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