
人気料理研究家のリュウジさんは、実は10代のときに世界一周旅行を経験しています。その参加費用のため、ポスター貼りのボランティア活動をしていました。そこで得た学びとは。半生を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。
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「一緒に世界一周に行かないか?」
ある日、友人は電話越しにそう誘ってきました。
当時、普通に高校に通っていたら2年生の時期です。
NGOのピースボートが企画している安い旅行プランを見つけたけど、一人で行くのは心細い。リュウジならどうせ暇しているだろう、と思って誘ってみたというのです。
とりあえず一緒に説明会に行ってみたところ、すぐに「これはおもしろそうだ」と直感しました。
でも俺は、バイト経験もゼロなら、引きこもりで家族以外の人と話したこともあまりない。一般的な相場より金がかからないと言っても、バイトがすぐ見つかるとも思えないから、正直無理かなあと思ったんですね。
それで説明会の最後、思い切って「行きたいとは思ったんですけど、金がないんです」とスタッフの人に質問しました。
そしたら「そんな人のためにちゃんと行ける方法があるよ」と言うんです。一言で言えば、ポスター貼りのボランティアに参加すれば費用を下げられるのだと。
つまり、飲食店なんかにお願いして世界一周旅行のポスターを貼らせてもらい、その枚数を計算して正規の料金から割り引いてもらえるのだそうです。
それに参加すれば、最大「タダ」で旅行に行けるかもしれない。だから一緒にやってみないか、と誘われたわけです。
やってみてもいいかなと思って帰宅し、母親に相談してみました。
すると母親は予想外に食いついて、「絶対に行きなさい」と猛プッシュしてきます。
母親は若いころ、海外旅行にたくさん行ったことで世界が広がったと語っていました。あとは、引きこもりの子どもが自分からやりたいことを見つけてきたのが嬉しかった、というのも賛成した理由だったのでしょう。