落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「命名」。
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ここんところ、弟子入り希望がちょいちょい現れます。「コロナもそろそろ収まり気味だし、落語家にでもなってみっかな」というおっちょこちょいが増えてきたのか。当人は至って真剣ですが、このご時世に噺家になろうなんてよっぽど能天気かヤケクソかどちらかです。まぁ自分も同じなのでそれを否定はしませんけども。
私には現在4人の弟子がいます。一番弟子のきいちは役者でそこそこ食えてたのに事務所を辞めて入門志願にきた馬鹿です。二番弟子の与いちは15歳で弟子入りにきて「高校くらい出たら?」と言ったらホントに進路も決めず高3の春にまた現れた馬鹿。三番弟子のいっ休は京都大学を留年してまで卒業し入門にきた勉強の出来る馬鹿で、四番弟子の貫いちはこれまた国立大学を卒業して茨城の果てからヘラヘラとやってきた馬鹿です。馬鹿でも名前くらいつけないと呼びにくいので、一応馬鹿な師匠なりに[命名]をします。
弟子の名前はみな「○いち」にしようと思ってたのですが、三番弟子は『いっ休』。本名・永井くん。彼は痩せていて頭がツルツル。入門前は寄席の楽屋口で私を待ちかまえていたスキンヘッド。最初は見た目が怖いので無視していましたが、とうとう押し切られ2018年2月に弟子にすることになりました。京大理学部卒。なめくじの研究をしながら落研に一生懸命だったという「税金泥棒」。
ついては命名会議を開きました。参加者は私、弟子一同、私の家族。基本的に私が命名します。師匠なんだからあたりまーえー。「スキンヘッドだから『ピカいち』!」。主に家族から反対されました。ふざけてる、だって。『ハゲいち』『つるいち』『ざとういち』『そくしんぶつ』すべて却下。「『芳いち』はどうだ?耳なし芳一リスペクト! 身体中にお経を書いて高座に上がれ!」。我が家のリビングが静まりかえります。「まくらのツカミは『[芳いち]だけにお客様のお耳を拝借いたします』はどうだ!?」「気持ち悪い……」。家内が言いました。「なんで!? 耳なし芳一、知らないの?」「知ってるわよ! だから気持ち悪いって言ってるのよ!」。こっちはまくらまで考えてやったのに、気持ち悪いとは何事か。それに弟子も子供たちも、ましてや永井本人もホッとしたような顔をしているではないか。