王騎を演じている大沢たかお(写真:ロイター/アフロ)
王騎を演じている大沢たかお(写真:ロイター/アフロ)

「山陽の戦い」では多く新キャラが初登場

 だが、「山陽の戦い」が描かれないとなれば、合従軍編の面白さが半減してしまうと、原作ファンの間で不安の声が上がっている。特にネット上では、以下の懸念点が指摘されている。

「最大の問題は、“なぜ合従軍が起きたのか”という動機づけが不十分になること。そもそも、合従軍が結成されたのは『山陽の戦い』によって中華の均衡が崩れかけたから。そして、李牧が王騎に続いて燕国の大物将軍を討っていたのが布石となっている。これらの積み重ねを描かずに、いきなり合従軍編に突入すれば、原作読者は理解できても、映画勢は置いてけぼりにされかねません」(漫画誌編集者)

 また「山陽の戦い」では多くの新キャラクターが初登場し、各陣営の関係性や魅力を丁寧に描く重要な章でもある。

「信の同世代ライバルとなる蒙恬(もうてん)や王賁(おうほん)、そして将軍では“自分の国を作る”野望を持った王翦(おうせん)や圧倒的な人気を誇る元野党の桓騎(かんき)といった主要キャラが活躍します。ここを飛ばすと、合従軍戦での彼らの行動に説得力がなくなってしまう。さらに、清野菜名演じる羌瘣(きょうかい)は『山陽の戦い』での見せ場を終えたのちに敵討ちの旅に出るため、合従軍編には登場しません。橋本環奈演じる河了貂(かりょうてん)の軍師デビューも合従軍編より前なので、時系列を無理に圧縮すれば、キャラの成長や展開に違和感が出てしまう恐れがあります」(同前)

 もっとも、現時点ではスーパーティザー映像のみが公開されており、映画の全体像はまだ見えてこない。

「信が甲冑を着ていたからといって、『山陽の戦い』が完全にカットされると決定したわけではありません。実写『キングダム』は原作者の原泰久氏が脚本に名を連ねており、これまでの4作も原作の世界観を壊さない構成で好評を博してきました。ここまで積み上げてきた完成度を考えれば、制作陣が拙速な判断をするとは思えません。まずは公開を待ち、劇場でその真価を確かめるべきではないでしょうか」(前出・蒼影氏)

 原作ファンの不安と期待が入り混じるなか、ついに動きだした「キングダム」新章。果たして制作陣はどのような構成で壮大な戦乱の時代を描くのか。その行方は劇場のスクリーンで見届けたい。

(泉康一)

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