
AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
突如現れた「踊りつかれて」という名のブログには、SNSで誹謗中傷を繰り返す83人の個人情報が事細かく記されていた──。「気怠く、物語的で、きっと30年後もカッコいい」と著者である塩田武士さんが表現するタイトルも胸を打つ。「アンドレ・ギャニオンのCDアルバムにあった『踊りつかれて』というタイトルが目に留まり、そこからラストシーンが思い浮かび、逆算が始まった」(塩田さん)。直木賞候補作『踊りつかれて』。塩田さんに同書にかける思いを聞いた。
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〈ひょっとして、自分のこと正しいと思ってる?〉〈よく聞け、匿名性で武装した卑怯者ども〉
塩田武士さん(46)の最新刊『踊りつかれて』の序章「宣戦布告」は、あるブログに書き込まれた激しい言葉とともに幕を開ける。「頭の中で人物が喋っているかのように、次から次へと粘着質な言葉が出てきた」と塩田さんが言う通り、言葉一つ一つが放つ“嫌な感じ”が脳裏にこびり付く。ブログの発信者は「枯葉」なる人物。彼には大切に思う芸能人が二人いた。一人は不倫が報じられSNSで誹謗中傷を浴び自ら命を絶った芸人・天童ショージ。もう一人は、かつて一世を風靡するも歪な週刊誌報道により表舞台を去った歌手・奥田美月。
「ずっと『あわいに生きる』ことを信条としてきた」と塩田さんは言う。
「虚と実の真ん中に立つ。新と旧の間に立つ。情報化社会を描くにあたり、現代のSNS文化と1980年代の週刊誌の間に立って書かなければ、という思いがありました」